「事業家目線」「投資家目線」の2つの視点で捉える
こうした背景から、過去最高件数を記録する日本企業による海外企業買収だが、「出物ありき」、「高価格での買いっ放し」傾向からの脱却こそが今求められている。そのために不可欠なのが、M&Aの目的を「事業家目線」と「投資家目線」という2つの視点から捉えることである。
「事業家目線」とは、経営戦略、事業戦略の狙いを達成するための目線であり、「投資家目線」とは財務的、数量的にリターンを追求する目線と置き換えてもいい。
本来、M&Aは、企業の中長期ビジョンや戦略目的の実現手段である。特にクロスボーダーM&Aの場合は、地域や事業領域の拡大によるグローバル化を企図した成長志向のものが多く、まさに業容拡大を志す事業家的な側面が強い。
同時に、M&Aは、別企業のオーナーシップを握るために多大な対価の支払いが伴う投資行動である。特にクロスボーダーM&Aの場合は、国内M&Aと異なり、日本企業本体との単純合併ということはなく、多くの場合、株式や資産を取得する買収が主になる。その際に取得した株式や資産自体の評価や配当などは投資のリターンとして見えやすい対象である。
こうしてみると、クロスボーダーM&Aは、本来の目的意識として、事業家と投資家の「2つの顔」をより強く持っているということがわかる。そうであるならば、M&A戦略からポストM&Aに至る一連のプロセスを通じ、「事業家視点」と「投資家視点」の両面からM&Aの「成功」へ導くことが今まさに求められているのである。