18時台にアポが取れる野村の営業マン、
かつては皆無だった
今となっては、たとえば野村證券の若手営業社員だと、平日18時30分に取材のアポがとれてしまう。聞けば「17時30分には仕事が終わって会社を出られました」と、涼しい顔で言うのだ。そんな公務員みたいな野村マンは、激務とストレスの日常を過ごす同社では、かつて存在しえなかった。
中堅社員は、「社員から『もう休みは必要ない』『もっと働きたい』……という声をよく聞きます。(時間の制約により)伸びる人と伸びない人の差が広がってきている。年20日の有休をぜんぶ消化したい人は、ウチに来てほしくない、というのが本音です」と、危機感を持って語っていた。
野村には、落ちこぼれでも先輩が最後まで面倒を見て育てるし、デキる社員は怠けさせず無尽蔵に働かせてどんどん成長させるカルチャーがあった。「電通の過労死事件のあと、変わりました。それまでは、支店の数字がノルマに達していないと、課長が残って、未達の営業マンを詰める。課長が残っていると、デキる人も含め、課の他の人たちも全員が20時過ぎまで残業する、というカルチャーでした」(中堅社員)
「詰める文化」が変わってきた
だが電通事件後は、「月30時間超の残業」が発生すれば支店内で問題化し、「40時間超」で本部の管理部門から注意が来るようになった。早朝からのサービス早出とサービス残業で100時間超が当たり前だった時間外労働時間は、3分の1未満に激減。カドがとれて、普通の会社になってきた。
その軍隊的な厳しさから「失踪して、そのまま辞める」といった同社でよく見られた光景も、なくなった。2017年から、人間ドックの受診(無料)を30歳以上で義務化し、そのために特別休暇を1日追加。もはや、国家以上の包摂ぶりに転換している。
「新人の指導にあたるインストラクター(30歳前後)が、人事から『怒るな』『詰めるな』と言われるようになったんです。個室で諭せ、みんながいる席では怒るな、などと会社から指示が出ている。従来の『詰める文化』とは、明らかに変わってきています」(若手社員)
これまでは、サイボーグ的に強靭な精神と肉体に恵まれた人でないと生きづらかった帝国ノムラ軍(よって体育会出身者が多い)は、普通の人でも健康に働けるようになってきたのだ。優等生的な見方をすれば、実によいことで望ましい変化といえるが、第三者的には“つまらない会社”になってしまった。
(本記事は『「いい会社」はどこにある?──自分だけの「最高の職場」が見つかる9つの視点』の本文を抜粋して、再編集を加えたものです)