「いい会社」はどこにあるのか──? もちろん「万人にとっていい会社」など存在しない。だからこそ、本当にいい会社に出合うために必要なのは「自分なりの座標軸」である。そんな職場選びに悩む人のための決定版ガイド『「いい会社」はどこにある?』がついに発売された。20年以上にわたり「働く日本の生活者」の“生の声”を取材し、公開情報には出てこない「企業のほんとうの姿」を伝えてきた独立系ニュースサイトMyNewsJapan編集長・渡邉正裕氏の集大成とも言うべき一冊だ。同書のなかから厳選した本文を抜粋・再編集してお送りする。

【年収200万円減も…】働き方改革で「残業代」を失った人のリアルPhoto: Adobe Stock

「18時には帰れと言っただろ!」

 証券リテール業界は、最も働き方が異常な世界だった。

 若手の朝7時出社は常識とされ、夜も連日21~22時まで。たとえばSMBC日興証券の定時は8:40~17:10なので、まともにカウントしたら、朝と夜の合計で、1日5時間ずつ残業代が発生し、営業マン全員が月100時間オーバー必須という“総過労死認定状態”。適者生存で、それでもやっていける人だけが残る、ブラックな業界だった。

 これを無理やり正常化した結果、ハレーションが起きている。

「最近は、『18時に帰れよ』と毎朝言われます。残ってると、『帰れって言ったじゃん!』と営業課長や支店長から怒られますから。特に厳しくなったのは、電通事件後です。その前だと、朝は7時出社で、夜は20~21時まで残業するのが当たり前でした。それが今は、どの課でも朝8時ごろ出社~夜は19時前後まで、が当たり前です」(SMBC日興証券30代社員)

残業代がつかなくなり、
年収が200万円近くダウン

 歓迎すべきかといえば、もっと自由に働きたいという。

 給与明細を見せて説明してくれた。

「私の場合、この明細のとおりで、2016年には深夜残業と休日出勤も含め残業60時間超だったものが、(2年後の)今では、たったの5時間です。毎月、こんな感じ。そうかといって、営業として求められる数字はまったく変わりませんから、『これは仕事をさせないパワハラじゃないか』と社内で話題になっています。数字が行かなければボーナスも減りますから。特に、一律40時間分のみなし残業代がつかない20代社員たちは、200万円近く年収が減った、と聞いています」(同)

 これは「生活残業」問題といわれるもので、残業しないと生活費を賄えない報酬制度設計とすることで、当たり前のように社員に残業をさせる手口だ。多くの会社で横行しており、たとえば「新入社員から、予め残業代60時間込み」の会社は多い。