販売チャネルの一つとしか捉えていない日本企業

 世界の動きに反して、多くの日本企業はECへの取り組みがかなり出遅れている。「対岸の火事であり騒ぎすぎ」と、ECを「納入条件が合えば付き合う」程度にしかとらえておらず、「ECは単なる1つの販売チャネル」としか認識していない。その根底にあるのは、伝統的小売りや近代的小売り(モダントレード)で売上を伸ばしてきたという過去の成功体験、そして既存の小売り・卸業者への配慮がある。

 ECは簡単に売価チェックができるため、日本企業はECでリアル店舗よりも安い価格の商品が売られることで生じる軋轢をおそれているのである。

 しかし、ECを「単なる1つの販売チャネル」と認識していては、もはや将来の事業成長に禍根を残すことになりかねない。世界では、中国やアメリカなどで次々に生まれているD2C(Direct to Consumer)スタートアップはもちろん、リアルチャネルに深く根を張る欧米企業までもがECを梃子(てこ)にした事業成長を模索しているからだ。

 ECへの取り組みにおいて欧米企業と比べ周回遅れである現状を示そう。

 図表1ー1をみてほしい。これは、ECの総合力を簡易に診断するために、PwCコンサルティング合同会社(以下、PwCコンサルティング)が中国大手ECの旗艦店用に独自に作成した「EC運営力クイック診断シート」だ。PwCコンサルティングでは、日本企業向けに運営オペレーションレベルを無償診断しているが、多くの日本企業が企画力やカスタマーサービス、SNSの面で競合他社に劣っている。

アフリカの日系企業シェアは0.5%以下

 日本企業は新興国での存在感が非常に薄い。自動車や電機などの一部の産業は別として、特に消費財(日用消費財)企業については存在感がまったくないといっていい。例えば、近年、アフリカ進出済みの日系企業数は300~400社で推移する中で、消費財企業はわずか20社に過ぎない(JETORデータより)。日用品、食品などの身近なカテゴリにおける日系企業のシェアは軒並み0.5%以下である。これはつまり、スーパーマーケットやコンビニエンスストアといった既存のリアルチャネルは欧米企業にすでに押さえられてしまっているということだ。

 だが、この状況は実はチャンスでもある。リアルチャネルとのコンフリクトを一切考慮せずに、ECで勝負するというオプションを選択できるからだ。

 とはいえ、「ECは単なる1つの販売チャネル」という認識のまま、海外でEC市場に参入するのは無謀といわざるをえない。ECでの勝ち筋が従来のリアルチャネルでの勝ち筋とまったく異なるからである。たとえば、リアル店舗では棚が限られているため、売り場の編集や商品の見せ方が限定的にならざるをえない。一方、ECにはスペース的な制約がない。これは、サイトの作り方1つとってみても、デザイン力や企画力、表現力などがものすごく求められるということだ。

 もし、リアル店舗と同じ発想で、「とにかく並べて値段を下げればいい」といった感覚でいるのだとしたら、海外のEC市場で勝つことは難しい。

 では、日本企業が海外で勝つにはどうしたらいいのか。有効なアプローチの1つは、各地域の有力EC企業とパートナーシップを結び、それをトリガーに進出していくことだ。