個人も組織も、学ぶことは大切ですが、もはや、それだけで十分ではありません。ビジネスでも、スポーツでも、同じスキルや戦略が、そういつまでも通用はしません。常に何かを学びなおさなければいけない時代になっています。リーダーにとって、学びなおす力であるアンラーンを妨げるのは、過去に達成するのに役立ったが今では限界に達している行動や方法、つまり「成功体験」だったりします。セリーナ・ウィリアムズからディズニー、アマゾン、テスラ、グーグル、NASA…事例満載でアンラーンの全貌がはじめてつかめる本、『アンラーン戦略 「過去の成功」を手放すことでありえないほどの力を引き出す』(バリー・オライリー著、ダイヤモンド社刊)から、アンラーンを妨げる8つの障害を紹介していきます。(監訳:中竹竜二、訳:山内あゆ子)
変われないリーダーが直面する障害
古くなった考え方を手放し、アンラーンするには勇気、好奇心、そして違和感を楽しむ姿勢が必要だ。願望を達成し、期待する結果を得るためには、実行不可能な価値観や仮定、われわれの将来の発展を妨げる考え方を手放さなければならない。既存の条件付けが将来の成功を制限していることを理解し、受け入れなければならない。
アンラーンを難しくする原因は、何よりも自分自身にある。自分の古い思考パターンのせいで、新しい可能性や、改善のための新しい方法が、見えなくなってしまうのだ。障害は自分の中、自分の外、あるいは状況次第で生じるが、出所がどこであれ、われわれを現状に固執させようと仕向ける。
障害となるものには以下が考えられる。
リーダーシップの条件付け:どう指導するように教わったか、そもそも自分がリーダーシップをどう考えているかは、自分がどのような経験をしてきたかに基づく。適切なリーダーシップについての各自の定義は、日々の業務や、自分が従っているリーダー、働いている組織で目にすることに、もっとも強い影響を受ける。その多くはいまだに、19世紀の産業革命のあいだに実践され、原則となった状態のままだ。
知識の基準値:われわれは、世界がどのように機能するのかについて、自分が入手でき、正しいと思う情報に基づいて理解するものだ。子どもの頃、われわれはまず自分の理解を形成する新しい経験を吸収する空っぽの器として、次々と精神的な飛躍を遂げ、そのたびに、それまで手が届かなかった新しい考え方を切り開く。だが、専門知識で頭がいっぱいになったり、難しすぎることは理解をあきらめたりもする。初心は忘れ去られ、探求の旅も終わる。
バイアス:われわれが複雑な世界を単純化するために試みる、心理学的にも神経学的にもあらかじめプログラミングされた方法は、貧弱な情報や不十分な状況認識に基づいていることが多い。結論を急ぎ、手っ取り早い一時しのぎの解決策でごまかし、時間をかけて眼前の問題に取り組むことをせず、ひたすら先へと急ぐ。いったん立ち止まって処理するための時間や空間を取ることはめったになく、そのほうが結果が良いに違いないという見通しをもって耐え忍ぶ。
常に自分が正しくありたいというエゴ:われわれのエゴ(自我)は強い影響力を持つ。エゴは自己認識を阻害することが多く、ストレス、恐怖、不信を引き起こす。幅広い知識とノウハウを示せば賢いと思われる。多くの組織がそれを基準に昇進を決めている。だから、間違って恥をかくことを恐れ、不確かな未知の事柄に挑戦せず、成長の機会を失う。
評価と報酬を得ることに傾注する:授業で正しい答えを出すことで評価されていた幼い頃と同様、会社では現状維持する企業体質の下、言われたとおりのことを行う人が評価される。われわれは「これをすれば、これが手に入る」という条件付きの人間関係を結ぶ。こうした枠組みに慣れてしまうと、当然ながら「手に入る」ほうにだけ集中してしまい、「行為」の目的や、そもそもどうしてそれをやるのかという価値を考えることを忘れてしまう。この因果関係をもっとも典型的に示すのが、個人が多額のボーナスという報酬を得たいがために倫理にもとる行動をしてしまい、その予期せざる結果として世界的な金融危機が起きるに至ったという現実だ。
不確かなことやリスクに対応する能力(あるいは能力がないこと):われわれは、どれほど確実性を追求し、どれほどリスクを回避しようとするか。人は不確実性よりも予測可能な結果を好むことが研究によってわかっている――その結果がポジティブなものであろうと、ネガティブなものであろうと、だ。アーチー・ド・バークが率いるチームは、確率が50対50に近づき、不確実性がピークに達するとき、われわれの脳内ではドーパミンの量が急上昇し、交感神経系が作動することを発見した。これは素早く行動を起こすための準備だ。ストレスが増し、心は不確実な選択肢に抵抗を示す。これをビジネスの場面に置き換えれば、リーダーは不確実な結果を回避するためなら何でもやるということになる。
好奇心、あるいは好奇心の欠如:新しい情報やまだ答えの出ない疑問に、どれくらい興味を持つか。自分の行動でそれを探求し、さらなる発見をする気があるか。好奇心こそが、現状から抜け出し、知識の限界を押し広げる鍵だ。たとえば、最近誰かがあなたの視点とは異なる考え方を示したときに、あなたが即座にそれを拒絶せず「面白いね、もっと教えて」と言ったのはいつだっただろう?
環境:われわれの職場、業界や市場、住んでいる地域社会、世界中の状況や構造、社会規範。身の回りの環境が価値を認めるものに、われわれも価値を感じる。かつてのローマ人たちのように、あなたをとりまく環境はアンラーンに価値を認め、積極的に実践しているだろうか?
アンラーンは、すでに知っている確かなものを手放し、心を開いて不確かなものを受け入れるという、自分の弱さを認める行為だ。成長し、影響力を持つためには、自分が知っていることは十分ではなく、新しい情報や考え方、行動が必要であると認めることが必要なのだ。