担当職も研究職も評価を定量化
社員の「納得感」を上げる仕組み

前野先生

前野 ジョブ型がいい人にとってはそちらが幸せですし、担当職は多様な仕事をすることが幸せな人たちだということですね。

有沢 そうですね。担当職では何を変えたかというと「評価」です。それまでは「ほぼ期待通りの成果」「期待をやや上回る成果」「やや期待を下回る成果」といったような、なんとでも解釈できる評価の仕方でした。期待をやや上回るとは? 何をもって期待を上回ったとその上司が考えたのかを聞くと、「よくやってるような気がして」といった感じだったのです。

 それだと、上司が代われば社員の評価も変わってしまいます。だからKPI評価シートを取り入れました。

 例えば、「ある施策を立案して、何月の経営会議に付議するところまで持っていく」とか、「新卒採用で何人採用して、そのうち何%を女性にする」とか、あるいは「女性管理職について何人登用して、管理職候補になるのは何人だ」とか誰でも分かる評価に変えました。つまり数値的に測れるものをいつまでにどうやってどの程度まで達成するのか、ということに全面的に変えたのです。これらがKPI評価シートにすべて書いてあります。

有沢氏

 例えば一般的に評価が難しいといわれる研究開発部門も同じです。こういう研究をしているけど、その研究の中間論文をいつまでに何本出して、それが例えば『サイエンス』や『ネイチャー』といった学術誌に掲載されたかといった具合です。研究開発にしても長いレンジのものがたくさんあるため、中間でどこまでするのかといったことを定量化できるように工夫しました。

 そうすると、評価に対する満足度がすごく高くなります。私が入社したとき、評価に対する満足度サーベイがありましたが28%だったのです。ところが、2021年10月時点では満足度が98%になりました。

 その理由を聞くと、評価が定量的だから分かりやすい。また、何ができて、何ができていなかったか、それが自分で分かるから、納得感があるというものでした。コロナ禍ではなかなか評価しにくいという話も聞いていましたが、当社ではまったくそこは心配していませんでした。コロナ禍でできなくなったものは評価を修正すればいいし、評価を見える化すればみなさんの安心感を保てる。逆に言えば、コロナ禍で働き方を変えて会社に来なくても、評価はきちんと行えるよう対処していたからです。

前野 なるほど。聞けば聞くほどよくできています。一つ気になったのは、私も研究者ですから、例えば30年間まったく成果が出ないけれど、急に成果が出てきてノーベル賞を取るといったケースもあります。だから中間評価もしにくいのかなと。失敗を許容しながら、どんと大きくなるイノベーションのためには、評価のしすぎが課題になることはありませんか。

有沢 評価の軸は決まっていますが、評価の項目や内容については一人ずつ違います。例えば、入社30年の大器晩成型の人などは結構います。その方々がある日突然、何かに目覚めて資格を取ることもあります。

 あるいは何かしたいというとき、そういう人は向き、不向きを自分で判断し、自分はこういうところに向いていると思えば、自ら異動希望を出します。それでHRBPが面談で「今回、急にこれをしたいと思ったのはなぜ?」と聞き、その社員から「実はこれがしたいと自分で分かりました。これなら成果を上げられると思います」と返事をされたら「よし分かった」と、その異動希望をできるだけかなえられるようにしています。

 そこで人材開発委員会が、HRBPの意見を聞きながら異動希望をくめるため、適所適材ができます。それこそ50歳を過ぎてから課長になる人もいっぱいおり、マネジメントをしたくないという人はスペシャリストの道に導く。複線型で個人がどの選択をしても納得できる。個人の「納得感」を上げる仕組みを作っているというイメージです。

前野 本当にきめ細かですね。