総選挙が決まってから、安倍政権の経済政策に期待が集まり、円安と株高が急激に進んだ。初めは懐疑論もあったが、今やほとんどの一般雑誌が「株価はまだまだ上がる」という論調になった。そうすると雑誌が売れるのだという。目下の市況を「アベノミクス相場」と呼ぶとして、当面のアベノミクス相場と付き合う上でのチェックポイントを挙げておこう。
まず、「インフレ目標2%」がどのくらい強く日本銀行を拘束するか、その程度の機微が重要だ。
「インフレ予想が起こり、その通りにインフレと円安になっても、景気はよくならない」という杓子定規な批判を聞くことがあるが、インフレ目標が円安をもたらすのは、インフレ目標達成までの期間に日銀は金融緩和を止められないので、この間実質金利が下がり(たぶんマイナスになり)それがしばらく継続すると市場が予想するからだ。インフレ目標がすぐに実現するわけではないからこそ、円安への反応が起こるといういささか皮肉なメカニズムが働く。この効果は、日銀が金融緩和の手を緩めるのではないかと疑われると減ずる。したがって、政府と日銀の政策合意の形態、日銀総裁の人事などを、投資家はこの観点から評価しなければならない。
日銀は1月22日の政策決定会合で「2%のインフレ目標」を受け入れ、政府と「共同声明」を発表した。声明は歯切れの悪い文章だが、最低限の格好はできた。今後、経済財政諮問会議の議事を通じた圧力や、日銀法改正の議論などを通じて、インフレ目標の効力を強化する手段がある。これは、政府が持つ市場介入カードだ。
日銀総裁人事は注目の的だが、財務省系の大物の就任は、将来政府を動かす力を持つ可能性があり「目標」の効力を弱める可能性があると解され、相場的にはややマイナスの評価になる。インフレ政策に熱心な学者のほうが相場的には高評価となるだろう。
インフレ目標と円安まで話を進めたが、今のところ、円安が進むと日本株はほぼ連動して上昇してきた。「円安=株高」はその逆まで含めて投資家の実感だろう。大まかには1ドル85円で日経平均1万円、円安1円ごとに株価200円高なので、円レートの行方が問題だ。金融危機前が1ドル100円、サブプライム問題の前が120円なので、100~110円くらいまでは円安の余地が十分あると筆者は考えているのだが、動きが急なものになった場合、外国が日本を為替操作と非難する可能性があり、これが大きなリスク要因だ。日本人がオバマ大統領を好きなほどには、オバマ政権は日本を好いていない。影響力の大きさから見ても、米国の反応には注意しておきたい。