メッセージの「発信」の仕方が
エンゲージメントのスコアを左右する
キリンホールディングス常務執行役員・人事総務戦略担当。1985年、キリンビール入社。技術系出身だがマーケティング・広報を長く経験し、2005年キリンビバレッジにて広報部長。10年、横浜赤レンガ代表取締役社長。12年、キリンホールディングスにてCSR推進部長兼コーポレートコミュニケーション部長などを経て、19年からキリンホールディングス常務執行役員(マーケティング・ブランド戦略担当)。22年から、人事総務戦略担当管掌。20年から、ファンケル社外取締役兼任。
坪井 少し違う切り口ですが、若い世代の人は社会課題にすごく敏感です。当グループは「CSV(クリエイティング・シェアード・バリュー、共通価値の創造)」を掲げています。ビジネスバリューとソーシャルバリューが両立しなければならないという考えに立っていますが、若い世代の人はそれにすごく共感して入社します。
CSVという概念そのものはまだ10年ほどの歴史ですから、それより上の世代は後で学んだ概念になるわけです。もちろん、日本には昔から親和性のある概念ではありますが、いろいろな切り口で世代による感覚の差がある中で、社会と企業と個人がウィン・ウィン・ウィンになるようなことを考えていかなければ、エンゲージメントやモチベーションにつながらないと思います。
村瀬 エンゲージメントを高めることを考えても、より多様になってくると、年齢でくくりたくないものの、同じ施策だけでは特定のグループができていく。そうなると、違うものを与えていかなければ、エンゲージメントがどこかで上がりきらなくなってくるでしょう。伸びが鈍化してくることもあると思いますが、そのあたりはどう解消していますか。
坪井 個人の思考に「パーパス」のベクトルを合わせていく取り組みは、ずっと必要になると思います。もちろん、世代やクラスターによってある程度分かれますが、最終的には個人ですから。
小野 まさしくその通りで、特に若い世代になるほど、社会課題に対して共感する人の比率が高まります。「会社の方向性、ビジョンに対してどう感じるか」というサーベイをしても、それが顕著です。やはり何らかのパーパスを持ち、そこで働く意味や位置づけを求める人が増えているというのはあると思います。
だから、かなり細かいメッシュでそういう対話を繰り返して、腑(ふ)に落ちるプロセスをどうデザインできるか。われわれも完全にできているわけではありませんが、それが重要だと思います。
村瀬 私はリーダーシップの研究をする中で、いろいろな企業の方から現場の声を聞く経験をすることがあります。そこでよく出てくるのが、パーパス、ビジョンについて、トップがいろいろ考えながら言っているものの、それが部長層以下から徐々にうまく伝わらなくなり、結局何を言っているのか現場が理解していない。そんな声もたくさんあります。
トップのメッセージを浸透させることは、みなさん苦労されている作業だと思いますが、浸透させる上で何を意識されていますか。
小野 すごく難しい質問であり、課題ですが、組織のどこかで詰まってしまってメッセージが変容してしまうというのはよく聞きます。とはいえ、企業は組織で動き、リーダーが対話する責任もありますし、それを含めてリーダーとしての面白さがあります。
例えば、会社が変わることは、自分にとってどういう意味があるのか。そういう目標を、変革目標を作るときにパーソナライズし、それを発信してもらう。そうリーダーにお願いして実践してもらうことはあります。
ただ、組織ごとにエンゲージメントを取ってみると、「発信」がうまくいっている組織とそうではない組織で顕著にスコアが違います。もし発信がうまくいっていないところがあれば、そこは組織を支援する人事部門の腕の見せどころです。