授業で政治の話をすることはいまだにタブー?
若者が政治に関心を持てない理由
――政権交代が滅多にない、議員の新陳代謝がほとんど効いていない、世襲、既得権益、小選挙区制、議員を務めた後のキャリアの問題、重複立候補……、皆さんのお話から、女性議員の増加やクオータ制の導入に関して、さまざまな課題が浮き彫りになりました。
田原 もう1つ大きな課題を挙げるとすればね、特に若い世代が政治にほとんど興味を持っていない。選挙でも特に若い人たちの投票率が非常に低いですね。これはなぜでしょうか?
長野 スウェーデンの高校に通っていた人に聞いたのですが、生徒たちがイニシアティブを取って、校則を変えたり、学校の運営を変えていったり、そうした成功体験を学生時代に経験しているそうです。政治に関する話を学校で友人とすることも、ごく日常的に行われている。
翻って日本では、意図のわからない謎の校則が延々と残っていて、「とにかく言うことを聞け」と。生徒が自分たちの力で学校を変えるという成功体験が圧倒的に少ない。自分たちが行動を起こすことで環境が変わる、という意識を持つことがどうしても難しくなってしまっている。こうしたバックグラウンドがあるのではないかと思います。
三浦 若い世代というのは、生まれた時から経済成長を経験したことがないので、「社会が良くなる」とはなかなか思えないんですね。成長がなく、もしかしたら世の中が悪くなるかもしれないという漠然とした空気感の中で育ってきた。今以上に悪くならないでほしい、今のままが続いていればそれでいいんじゃないか、そういうふうに思っているので、自分たちで何かアクションを起こして世の中を良くしていこう、というところまではいかない。そうした想いが選挙にも表れているのではないでしょうか。
長野 以前、現役の高校教師から、「具体的な候補者や政党の名前を出さずとも、政治をテーマにディスカッションすることを保護者がとても嫌がる」という話を聞きました。
公平性に過剰に注意をしなければいけない結果、授業でリアルな政治の話をすることを避けるようになり、生徒たちも「政治というのは面倒なものだ」「ふれないほうがいいものだ」という意識になってしまう。
田原 教師が政治の話をタブーにするために、生徒も話題にしなくなり、次第に関心も持たなくなる。
三浦 選挙権を得られる年齢が18歳になったことで、高校では主権者教育(※3)が始まりました。模擬投票が広がっていると聞いていますが、やはり政治的中立性の壁が高いので、具体的な政党名を出して議論することに、先生方は慎重になっていると思いますね。
長野 学校教育の中に主権者教育がせっかく取り入れられたのに、模擬投票ばかりになってしまっているという話も耳にしました。どうやって自分が政治参加するか、自分が政治家になったら何をどう変えたいか。こうした観点が抜け落ちて、投票することばかりに意識がいってしまっている学校も少なくありません。なんか惜しいですよね。
三浦 そうですね、選挙管理委員会から投票箱を借りてきて投票してみて終わり、というところもあるようです。やらないよりはやったほうがいいと思いますが、「政治」という言葉のイメージが、世間の多くの人から見るとすごく狭い。そのため、政治というと選挙や投票、という発想になりがちです。
「政治」をもっと広く捉える
身近な問題はすべて政治とつながっている
三浦 投票ももちろん重要ですし、政治家を応援したり、政治家になることも重要ですが、「政治」をもっと広く捉える必要があって、「社会をどのようにして自分たちの手で良いほうへ変えていくか」、これはすべて政治なんですよね。そうなると、投票というのはそのための手段のひとつでしかありません。
今、学校ではSDGsの教育がとても盛んですよね。
たとえば、この世界的な課題を解決するために自分たちなら何ができるか、といったところから始めてもいいですし、学費が高すぎるとか、給食が無償化されたほうがいいとか、貧困、ジェンダー、環境、どの問題から始めてもいいと思うんです。自分たちが日常の中で「これってどうなのかな」「おかしい気がするな」と思うちょっとした違和感から考えてみてもいいと思います。
そういった、学生たちが関心のある問題や、身近な困っている問題を切り口にしてみる。そうすると、ではそのためにはこういう政策が必要だ、そういう政策を支持している政党はどこだろうと、必ず政治につながっていくんですね。でも、初めから投票や政党の話をしてしまうと、難しくてよくわからない、政治は自分とは関係のないものだ、と敬遠してしまいます。
自分たちの気になる問題や身近な問題が、実は政治とつながっていると気づくこと。これをやるのが一番重要だと思います。
実際、Z世代と言われる若者のなかからは、社会課題を解決するためにアクションを起こす人たちが出始めています。この流れが広がることを期待しています。
――クオータ制を必要だと感じている有権者、ひとりひとりが何かできることはありますか?
三浦 政党へ世論からのプレッシャーをかけること。この力は非常に大きいです。ほかの国もやはり市民社会からのプレッシャーによって導入に至っているケースがほとんどです。ですからまずは関心を持つことですね。有権者が関心を持っていることがわかれば、政党も政治家も動き始めます。2021年に自民党の総裁選で女性が2人出たのも、「候補者に女性がいない」と世論から厳しい目で見られることを懸念し、自民党内の意識が変わった。
例えば、地元の選挙区の政治家に「なぜあなたの党は女性が少ないんですか」とか「比例名簿の上位に女性があまりいませんね」とか、伝えてみる。政党の県連組織(※4)というのは、候補者擁立に対して非常に大きな影響力を持っています。普通はそのような声は県連に届いてこないので、それを聞いた政党はびっくりしてその声は響くはずです。ぜひ地元の県連に意見を寄せてみてください。ですから、有権者にできることというのは本当にたくさんあって、実は効果が大きいんです。
――ありがとうございました。