さまざまな「環境の変化」により、多くの人が将来への不安を抱え、「大きなストレス」を感じている。ストレスを溜め込みすぎると、体調を崩したり、うつなどのメンタル疾患に陥ってしまう。そんな中、このコロナ禍に出版した著書『ストレスフリー超大全』では、著者の精神科医・樺沢紫苑氏は、ストレスフリーに生きる方法を「科学的なファクト」と「今すぐできるToDo」で紹介している。「アドバイスを聞いてラクになった!」「今すべきことがわかった!」と、YouTubeでも大反響を集める樺沢氏。そのストレスフリーの本質に迫る。

【精神科医が教える】考え方だけで自分を変える方法・ベスト1Photo: Adobe Stock

ビジョンを決めればいい

 あなたは、いますぐに生まれ変わりたいでしょうか。じつは、それは考え方次第で可能です。

「ビジョン」という言葉があります。

「ビジョン」は自分の「こうありたい」という希望なので、自分で好きなように決めればいいのです。そこに「向かって努力していく」という宣言でもあります。

 もちろん、何年かして「それは違った」と思うこともあるでしょう。その場合は、「修正」「変更」すればいいだけです。今の「ビジョン」が、自分にとっての一生ものの「ビジョン」なのかは、実際に行動しないとわからないものです

 ビジョンに向かって生きることで、1日1日が充実感に満ちあふれます。それが毎日、1年365日、10年、20年と積み上がっていきます。

「ビジョン」は宝地図であり、「生きる意味」は宝箱です。「ビジョン」に向かって突き進んでいくと、最終的に隠されていた「宝箱」、つまり「生きる意味」に行き着くのです。

 自分は何をしたいのか。どこに向かいたいのか。何を実現したいのか。「生きる意味」は見えなくとも、今の自分にとってのビジョンを決めて行動することができるはずです。

死の恐怖は、年をとるごとに減っていく

 いますぐに自分を変えるためには、「死のこと」を考えるのがおすすめです

 人間に限らず、生物であれば「死」に対する恐怖を持ち、可能な限り「死」を回避するのが普通です。生物の生存本能と呼んでいいでしょう。

 ですから、「死ぬのが怖い」という気持ちは、誰もが少なからず持っているものです。

「死への恐怖」は、年をとるごとに、つまり死に近づくほどに強まると思うかもしれません。しかし、実際はその逆なのです。

「死の恐怖」に関する調査(第一生命経済研究所調べ)によると、「死は怖い」という人は、40代で54.5%、60代で34.7%。70代で30%と、年をとるごとに減っていきます。

 年をとるごとに徐々に現実を受け入れるのかもしれませんが、「死の恐怖」は減っていくようです。

死から逆算して考える

「死」について考えると、今何をすべきかが見えてきます。「死ぬまでに何をやりたいか」「何をやり残したら後悔するか」を考えてみるのです。

「死」そのものを考えてしまうと、「生きていてもしょうがない」「すべてが虚しい」などとネガティブな感情になってしまいます。自殺念慮を持つ患者さんを診察してきた経験から、それが言えます。

 どうせ死ぬんだったら、「やりたいことをやろう」と思えることのほうが大事です

 そのことは、いくら説教しても伝わらないかもしれませんが、映画や小説などの物語を通して見ると、リアルに感じることができます。

 たとえば、黒澤明監督の映画『生きる』(1952年)という名作があります。以下、ネタバレを含みますが、内容を紹介します。

 無為に日々を過ごしていた市役所の課長の「渡邊」は、ある日、がんで余命宣告をされます。自分の「生きる」意味は何だったのか。それを考えていた矢先、元部下で今は玩具工場に勤めている「とよ」と再会します。

 彼女の生き生きとした姿を見て、さらに「あなたも何か作ってみたら?」とアドバイスされたことをきっかけに、公園整備の仕事にエネルギーを注ぎはじめます。苦労の末に完成した公園で、渡邊はブランコに揺られながら息を引き取ります。

 この物語は、「死」から人生を眺めると、「幾ばくもない余命を悪あがきする男の物語」に見えます。しかし、私たちの「生」のほうからアプローチすると、「貴重な人生の残り時間に、最も大切なことを成し遂げた男の物語」となるのです。

 生と死は、コインの表と裏です。同じ現象、出来事、物語も、「生」から「死」へと眺めることで違った見え方ができます

 そのため、1人の主人公の人生を描き切った映画や小説などの「物語」が強い力を持ちます。物語の特徴は、自分の人生に照らし合わせて、感情移入ができることです。ぜひ、そういう作品に触れて、自分の考え方を変えていきましょう。

樺沢紫苑(かばさわ・しおん)
精神科医、作家
1965年、札幌生まれ。1991年、札幌医科大学医学部卒。2004年からシカゴのイリノイ大学に3年間留学。帰国後、樺沢心理学研究所を設立。「情報発信を通してメンタル疾患、自殺を予防する」をビジョンとし、YouTubeチャンネル「樺沢紫苑の樺チャンネル」やメルマガで累計50万人以上に精神医学や心理学、脳科学の知識・情報をわかりやすく伝える、「日本一アウトプットする精神科医」として活動している。
コロナ禍に27万部のベストセラーとなった著書『精神科医が教える ストレスフリー超大全』(ダイヤモンド社)のほか、シリーズ90万部の大ベストセラーとなった著書『学びを結果に変えるアウトプット大全』(サンクチュアリ出版)など30冊以上の著書がある。