キャンドルの灯が
人々を魅了するのはなぜか?

――キャンドルの灯が人々を魅了するのはなぜだと思いますか?

ジュン 暗闇で不安の中、向こうに明かりのついた小屋があれば、そこに人は集まります。生き物、特に人間は、本能的に暗闇を怖がりますよね。

金指氏Photo by Teppei Hori

金指 そうですね。人は光や暖を求めて集う。そして集うと落ち着きます。

ジュン 本能に問いかけるものもあるのだと思います。シンプルに「癒やし」や「リラックス」を求めるのであれば、ヒーリングミュージックを聴いたり、体のマッサージを受けたりと、ほかにも方法はあるはずです。火というのは本来、危険なもので、安心・安全とは対極にあるものですからね。でもキャンドルの灯には、日常にはない、動物的な本能に訴えるものがあります。同じ「明かり」でも蛍光灯の明かりでは動物的な本能が遠ざかってしまう。

 人を惹きつける順序としては、まずは動物的な本能が火を危険なものとして察知するんですね。「あそこに何か危ないものがあるぞ」と。それで興味を持って近づいてみる。見てみると、本来、危険なはずの火なのにコントロールされている。先ほどお話ししたようにキャンドルというのは燃料が決まっていますからね。そして安心する。「なんだ、この場は安全が担保されているんじゃないか」と。危険なものを察知した後、実は危険なものではないんだと安心する。それがリラックス効果をより効果的なものにするし、動物的な本能が刺激されて集中力も研ぎ澄まされる。

 近年、キャンドルの人気が高まっているのは、もちろん、コロナ禍で自宅の時間を大切にしたいというニーズもあるはずですが、オール電化など便利な世の中になればなるほど、原始的な感性が退化し、それに対する潜在的な不安もあるのではないかと思うんです。「これは我々が扱えるのだろうか」と。人間にしか扱えないもの、自然界の摂理に触れたい、そのような欲求があるのではないでしょうか。これは先進国ほど、そうした傾向が強いように思えます。文明が進むと人は本能への刺激を求めるようになる。焚き火もそうですよね。

 逆に、災害の被災者や戦争経験者は、超現実的になっているので、自宅にキャンドルを置いたりするのは好きではないと思うんです。安全な世界に憧れがあるから、危険なものはできるだけ遠ざけたい。

金指 以前、ご年配のかたに「キャンドルの販売をしている者です」とあいさつをしたら、「君は『明るいナショナル』という言葉を知っているか? 戦後、これだけ日本が明るくなったのに、ロウソクを使うような暗い生活を提案しているのか。オレたちはもうそんな世界に戻りたくないんだ」と言われたことがありました。

 戦前戦後の暗い生活を体験した人たちからしてみると、もうそんな生活は嫌なんだと。暗い生活を提案しているのではなく、心地よい程度の明るさやゆらぎを楽しむ生活を提案しているということは最終的にはわかってもらえたのですが、一律に提案していけばいいというわけではないので、そこは非常に難しいところではありますね。

「実は私たちには必要だったんだ」
今は「脇役」の存在が見直される時代

――屋内外でキャンドルを飾る以外に、おすすめの楽しみかたはありますか?

金指 先ほどジュンさんのお話にも出ましたが、キャンドルの灯というのは、集中力が増すんですよ。リラックス効果もあるし、集中力も増す。ですので、PCの横にコーヒーを置くように、キャンドルを置いてゆらぎを感じながら仕事をしてみてください。実際に体験してみるとわかりやすいと思います。

 あとは、1on1(ワンオンワン)など上司と部下との面談時に、テーブルの上にキャンドルを灯しておくのもおすすめです。キャンドルの灯があるだけでとてもリラックスした空間になるので、お互いの緊張も和らぐのではないかと思います。

――たしかに、ビジネスにおいてダイアログやマインドフルネスに近年、注目が集まっているので、そうした場でもキャンドルは活用できますね。

金指 今現在、協会の会員は約6000人ですが、その9割が女性です。カメヤマのオンラインストアや実店舗の購買層もこれまでは女性がほとんどでした。それがここ2〜3年で、男性が習いに来たり、1人でお店を訪れてキャンドルを複数個、購入していくケースが増えてきました。ですので、男性にも今後はどんどんキャンドルを活用していただきたいですね。

ジュン氏Photo by Teppei Hori

ジュン 眠る前のひと時にキャンドルを楽しんでもらうというのは、そのまま眠ってしまう危険性もあるので立場上、言いづらいものがありますが、お風呂で楽しんでもらうのはいいと思います。

 入浴時間は限られていますし、水場ですので安全性も高い。入浴すると、お湯の温度や水圧で自身の体を意識しますよね。体が温まって血や神経の巡りが活性化される。今日1日、がんばった中で、自分の体のどこにどのような負荷がかかっているかを確認することができる。そのような時に、お風呂の照明だけではなく、キャンドルの灯で集中力を増すことで自身の体と向き合ってみる。

 湯気の中で見る灯も、また良いものです。リラックス効果も高まるでしょう。火を扱うことのネガティブな要素が少なくなるだけでなく、むしろさまざまな相乗効果を楽しむことができます。

金指 キャンドルは濡れても乾かせばまた使えますからね。お風呂のほかにも、自宅で映画を見る時にも画面の横にキャンドルを灯すだけで、非日常感を味わうことができます。さらに3つ4つ、高さが異なるキャンドルを置くことでガラリと雰囲気が変わります。いつもの空間だけど、いつもとちょっと違う空間にできる。しかも低コストで。

ジュン ある意味、ぜいたくな空間ですが、おいしいものをたくさん食べて内臓に負荷をかけたりするぜいたくよりも、こうしたぜいたくのほうが、健康的に心身をリセットできると思います。

 あとは、大切な人へ何かプレゼントする時も、何重にも包装したものをプレゼントするのではなく、包装はシンプルでもキャンドルを灯しながら空間ごとプレゼントしたほうが、相手の記憶に残りやすいのではないでしょうか。

金指氏Photo by Teppei Hori

――これまでのお話を振り返って、あらためて、日本キャンドル協会として今後、めざしていきたいものは何でしょうか?

金指 キャンドルをつくる人や、灯す人を増やしていきたいというのはもちろんですが、もっと多くの人にキャンドルの魅力を伝え、キャンドルの灯のゆらぎを通して人々がつながっていく、そのような場を提供していければと思っています。

 そのためには、イベントやメディアなどさまざまな媒体を介して広報していくだけでなく、キャンドルを安心安全に扱うための知識の啓蒙もしていく必要があると考えています。

ジュン 生活の明かりももちろん大切ですが、「必要ではない明かり」が求められているのも今の時代ではないかと思います。

 先ほどのJCAAというイベントの会場に東京タワーを選んだ理由でもありますが、東京タワーというのは、その多くの役割がスカイツリーへと移った現在は、電波塔としての役割はなくなりました。もちろん予備電波塔としての機能は持っていますが。役割は終えたけど、東京タワーの明かりを見ると、誰もがほっこりしますよね。日本の復興のシンボルでもあります。

キャンドル2022年のJCAAでは、アワードやキャンドルマーケットのほか、東京タワーの真下で一斉にキャンドルを灯すキャンドルナイトも行われた Photo by Hasegawa Koukou

 そういったものに対して、今、見直しがかけられているんだと思います。脇役だけど、実は私たちには必要だったんだ、と気づいて、もう一度、光を当てていく。主役でないものの必然性を見いだしていく。

金指 キャンドルもそうなのだと思います。自分を犠牲にして周りを照らしている。ファラデー(※)も子どもたちに「ロウソクのような人間になれ、周りの人々を照らすような光となって輝いてほしい」と言っています。私たちは今、そういう時代を生きていますし、時代も求めているのだと思います。

※マイケル・ファラデー(Michael Faraday/1791~1867)……イギリスの化学者・物理学者。ロンドンの王立研究所の教授として1860~1861年のクリスマス休暇に、同研究所でサイエンスレクチャー「The Chemical History of Candle」を実施。子どもたちに向けて、1本のロウソクにたくさんの科学現象が詰まっていることを解説したこの講演シリーズは、のちに『ロウソクの科学』などの書籍にまとめられた。2016年にノーベル生理学・医学賞を受賞した大隅良典氏や2019年にノーベル化学賞を受賞した吉野彰氏など、今もなお多くの研究者が愛読書として挙げている。物理学者のアルベルト・アインシュタインも彼を敬愛し、ファラデーの肖像画を自身の部屋に貼っていたといわれている。