親が元気なうちは
適度な「距離感」を大切に

 それでは具体的に、どのように片づければいいのでしょうか。ポイントをまとめました。

●安心を脅かさないための「分業」を
 親の警戒心が薄い場合は、先ほどのような「特に困っていない(からお好きにどうぞ)」という場所から始めるのもひとつ。そして、親子が並んで一緒にモノの選別をするよりも、分業がおすすめです。隣にいると「親の作業のスピードや要不要の判断につい口出ししたくなる」に決まっていますから。

・子世代:あちこちに分散しているモノをノージャッジで集める
・親世代:集めて、まとめられたモノを確認・判断する

 このイメージで分業しましょう。

 子世代は、古い家のあちこちに分散しているモノたちを「同じカテゴリー」で集めていくのが役目。布団、本や雑誌、衣類、季節の飾り物やアウトドアグッズなどが該当するでしょう。量がかさむ場合、段ボールや45Lのビニール袋を使い、カテゴリーが混ざらないように十分な間隔を設けましょう。

 集められた布団の山や、ほこりを被った本、色あせたおもちゃなどがカタマリとなって見えてくると「こんなにあったのね!」「さすがにもうこれは要らないわね」などと親世代の見方も変わってくることがあります。処分が進めばラッキーですが、そこを最優先に考えないこと。親世代の作業スピードや成果には期待せず、自分の「集めてカタマリを作る」作業に集中しましょう。

●喪失体験の「痛み」に寄り添う片づけを
 世の中には、他人には理解しがたいほどモノが捨てられない人がいます。もしもあなたの親がそうなら、背景には喪失体験があるのかもしれません。私自身、そういう人を何人も見てきました。

 例えば、一念発起してあらゆるものを思い切って捨てた後で、大好きだった叔母が亡くなり、生前にもらっていたたくさんの直筆の手紙を処分してしまったことを心底後悔。それ以降、家族の思い出にまつわるモノを一切捨てられなくなった人。

 パワハラ上司の下でつらい仕事生活が続き、「職を失うかもしれない」という恐怖から、着る見込みのない服、資格取得の勉強で使った資料、買い替える前に使っていた炊飯器など、ありとあらゆるモノが手放せなくなった人。

 手塩にかけて育てた子どもたちが次々に独立。以前は旅行に一緒に行ってくれた末娘も最近は友達とばかり出かけるようになり、ひとりぼっちになってしまった寂しさから、子どもが小さかった頃のレジャーグッズや工作用品を手放せない人。

「失ったもの」「失うことを恐れているもの」は、社会的地位や家庭内の役割、絆など異なりますが、どなたも深く傷ついていました。さて、あなたの親御さんはどうですか…? もしかしたら、たくさんの喪失体験を重ねているかもしれません。痛みを抱えたまま暮らしているかもしれません。

 部屋から不要物が取り払われたとき、「あー気持ちいい!」ではなく「こんなに、がらーんとしてしまった…寂しい」と親が感じてしまう片づけなら、無理に進めないでください。

 喪失体験の「痛み」がある人は、今現在の暮らしが不便なことよりも、「これ以上傷つきたくない」気持ちのほうが強いので、片づけのスピードはどうしても下がってしまいます。ですが、どうかその気持ちをくんで、そっと見守ってあげてください。作業の進捗が多少滞っても、後からきっと、あなた自身が「あの時そうしておいてよかった」と思えるはずです。