この時間になると、さすがに老人の体はクタクタだ。最寄り駅から自宅までの坂道をヨロヨロと歩き、玄関口についたところで一休み。

 そのときだ。「今日も1日、よく働いた! 何事もなく帰宅できた!」と、その日一番の達成感を覚えるのは。

 私は、知力・体力が衰えゆくばかりの老人だ。しかし、「できない」ことばかりだからこそ、「できた」ときの喜びは大きくなる。「できない」ことが増えていくほど、何気ない日常がチャレンジの連続になるし、「できた」ときの達成感は大きくなる。

 気づけば、私は働くことが楽しく、面白くなっていた。定年をとうに過ぎ、80歳を超えてようやく、私は仕事を楽しむ方法を知ったのである。

70歳を過ぎてから生活習慣をガラリと変えた

 私と同世代だと、「家事は妻の役割」という態度を決め込んでいる男性も多いだろうと思う。私もかつてはそうだった。

 いまのように、家事を担うようになったのはこの10年、70歳を過ぎてからのことだ。会社を起業した頃から、生活習慣を変えた。それは「自分のことは自分でできるようになろう」と決意したからだ。

 これからは男性も、1人で生きていけるようになるのがいいと思っている。

 流行りの「卒婚」をしろ、と言いたいのではない。女性は基本的に、生活費さえ確保できていれば、1人で立派に生きていける。家事ができるし、人づきあいも積極的だから、孤独にならずにすむ。

 問題は男性だ。仕事一筋だった男性が定年後、仕事をするでもなく、家事をするでもなく、妻に頼りきりで“濡れ落ち葉”呼ばわりされる例が、よく知られている。そんな老後は皆、避けたいだろう。

 自分で自分の生活の面倒を見られるというのは、非常に気分がいい。誰にも迷惑をかけずに生きている、という感じがする。