一つのプロジェクトの終わりで、あるいは半年ごと、3カ月ごと、自分の仕事をしっかり振り返り、課題を見つけ修正するような行動習慣があるだろうか。その前に、自分の仕事を振り返る方法論を獲得している人はどのくらいいるのだろうか。
サッカーであれば、一試合のすべてを映像に収めることができる。コマ送りすれば、そのときどきの選手の配置が分かり、ある局面でプレーヤーが何をしているかが明確になる。そのプレーヤーはなぜそこでそのような動きをしていたのか、その局面をどのようなものと認識して行動したのか。それはボールを持っている味方選手や、別の場所にいる味方選手と同じ局面の認識だったのか。他には選択肢がなかったのかなど、一つ一つの振り返りが可能だ。
会社事業の振り返りは
「事後検証」で
一方、会社員の仕事には試合の映像に相当するものがない。あるとすれば、定期的な会議の報告資料と、参加者の記憶くらいだ。しかも記憶はどんどん薄れ、1カ月もすれば誰も何も覚えていない。
だからこそ、もし仕事を振り返りたければ、一つのプロジェクトが終わった直後、まだ記憶が鮮やかなうちに、その内容について関係者が集まって、振り返り話し合う場を持たなければならない。
この振り返りの場をPOSTMORTEM(ポストモーテム:事後検証)の場と呼び、振り返りから学ぶことを大事にしている会社では、習慣的に実施している。ただ、割合的には10%にも満たないだろう。忘年会と同じように、みんなで飲んで食べて歌って、あえて大事なことには触れずに“忘れて”おしまいである。POSTMORTEMを正しく行っていれば、今の経営資源、能力のままでも多くのプロジェクトの成功確率は格段に上がる。
では、このPOSTMORTEMでは、具体的にどのように振り返りを進めるのか。
やり方はいろいろあってよい。まず、これは失敗から学ぶために行うものであって、個人の責任追及をするために行うものではないことが大前提となる。さらには、ニュートラルな司会者(プロジェクトに直接関与していない人)を立てることが重要であり、時間は4時間くらいまでにして、最終的には文書で関係部署に配布するなど、会社ごとにノウハウはあるようだ。
要諦は、サッカーの試合後の振り返りと同じように、最初の局面から最後に至るまで、個人はこの場で何を考えてこのような行動をしたのか、何がうまくいったのか、いかなかったのか、本来はどうすべきだったのか、などを虚心坦懐(たんかい)に語り合うことにある。
主要なメンバーが集まって、じっくり話し合えば、自分たちが驚くほど同床異夢であったことや、誤解が誤解を生んでいた経緯などがつまびらかになる。それをPOSTMORTEMに参加していた個人が多面的な角度から自分やチームの行動を分析するなかで、どのような場面でどのような失敗と失敗の契機が生み出されるのかについて、感覚を磨くことができる。その感覚を持った人が増えれば、次回のプロジェクトでは失敗につながる状況に対する嗅覚が働き、事前の行動修正が可能になる。