内容量と価格を変え
「量当たり単価」を上げたコカ・コーラ

 コカ・コーラで長らくおなじみだった500ミリリットルのボトルは2021年3月29日以降、ほとんどのスーパーで販売されていないことをご存じだろうか。それに代わって誕生し、現在に至るまでスーパーの店頭に並んでいるのが350ミリリットルと700ミリリットルという新たなサイズだ。

 これには、メーカーが実施した顧客の消費体験の調査が大きく関わっている。日本コカ・コーラの調べによれば、スーパーで購入したコカ・コーラは自宅消費のケースが多く、その場合は500ミリリットルというサイズが中途半端だったそうだ。

 1人世帯や2人世帯の数が増加している昨今においては、500ミリリットルでは1人だと飲み切れず、逆に2人だと物足りないという結果が明らかになったというのだ。そこで、1人でも飲み切りやすい350ミリリットルサイズと、2人でちょうどいい700ミリリットルサイズへとリニューアルを図った。

 メーカー希望小売価格は、従来の500ミリリットルが140円だったのに対し、新ボトルでは350ミリで120円。消費者の目には、「一回り小さくなった分、価格も安くなった」と映るだろう。ただ、量当たり単価で考えると1ミリリットル当たりの価格は500ミリが0.28円なのに対し、350ミリでは0.34円となり、約1.2倍に上がった計算になる。メーカー側の収益はアップしている構造だ。

 このからくりを知れば、消費者の中には「コスパが落ちた」と残念がる人もいるかもしれない。しかし、インターネット上では「飲み切りサイズでちょうどいい」「今まで余って捨てていてもったいなかった」といったコメントも見受けられた。

 多くの消費者にとって新サイズはより生活にフィットし、それにより大きなメリットを感じているようだ。これは値上げに成功したと同時に、顧客にもたらす消費体験が向上したことを意味している。

 値上げが消費者にプラスに作用しているという意味でも、量当たり単価を上げるという新しいアプローチは、従来の単純な値上げや実質値上げ(ステルス値上げを含む)と一線を画す、全く新しい値上げ手法であるといえよう。

 もちろん、量当たり単価を見直すとなれば、消費者調査に始まり、生産体制の見直し、新たなパッケージ・容器の開発など、相応のコストがかかる。

 この作業をせずに一時しのぎの値上げを繰り返すことは簡単だが、その度に顧客の心が離れていくとしたら…。コスト高が今後も長期スパンで続いていくのだとしたら…。顧客満足度や採算性を改善するためにも、思い切って、今一度徹底的に商品サイズや消費体験から価格の見直しを行うことも視野に入れてもいいのではないだろうか。

 多くの企業が難しい決断を迫られる「値上げ」。顧客に誠実に向き合うことが、顧客を味方につけ、ピンチをチャンスに変える唯一のカギといえるだろう。