「ウイルスとの共存」は
「黄泉の道に導く」もの?

 自身も医師である盧局長は、以前から習近平が唱えていた「コロナゼロ化」を支持する立場を表明してきた人物だ。海外で進められた「ウイルスとの共存」という方針を「患者を黄泉の国に導くものだ」と言い放ったこともある。李家超行政長官は、きっと彼なら中国政府の「コロナゼロ化」を徹底的に実施し、自分の政権をさらに中国政府の覚えめでたいものにできると踏んで、盧氏を医務衛生局長に指名したのだろう。

 だが、中国が措置を緩和した今、「心理的に越えられない壁」とは何なのか? それはまるで「中国の措置のその後が信じられない」と言っているようにも聞こえる。すぐに親中派議員たちの詰問にさらされた盧局長は、その発言が自分のものかどうかについては直接触れず、「(自分には)越えられない心理的な壁などない」と弁明。「中国の新措置に追従しないのは、一国二制度下の中国と香港ではワクチン接種率や感染予防対策などが違うからだ」と強調した。

香港市民全員に使用が義務付けられた
「安心出行」アプリ

 安心出行アプリは今年初めにオミクロン株が香港でパンデミックを引き起こした際に、すべての香港市民に使用が義務付けられた。駅や公共施設、店舗、商業ビルの入り口に大きく貼り出されたそれぞれの場所固有のQRコードを読み取り、記録するアプリだ。プライバシーへの懸念を口にした人々に対し、政府側は「アプリは個人の行動を監視するのではなく、感染者やクラスターが発生した際にその周辺にいたと思われる人たちを割り出して、注意を呼びかけるためのメッセージを送るためのものだ」と言い続けてきた。

 だが、実際には2月末には1日の感染者数が5万件を超え、感染者やクラスターがあらゆる場所で発生する事態となり、衛生当局は「すでにパンデミックだ。もう個別に感染リスクへの注意を呼びかける意義はない」と注意を呼びかけ、メッセージの配信を中止した。「ならば、アプリを使う理由はもうない」という声も市民から上がったものの、政府はそれと同時に同アプリにワクチンパスポート機能を搭載し、ワクチンを接種していない人の飲食店内での飲食を禁じたのである。