香港市民の、
香港政府への根強い疑惑

 2019年のデモを経た庶民の間では、政府の行為に対する信頼感は失われており、アプリがこっそり個人の行動を記録しているのではないかという疑惑は根強い。中国国内で健康コードアプリが地方政府によって操作され、持ち主が外出できなくなるという事件が起こるたびに大きく報じられ、「やはり政府はそういうことをしているではないか」と大きな注目を引き起こしてきた。

 だからこそ、筆者の友人(特にメディア関係者)の中には、超格安スマートフォンを別途購入してこのアプリ専用とし、日常的に使用する通信アプリやその他情報の詰まったアプリが入ったメインのスマートフォンとは切り離して使用している人も少なくなかった。

 だが、中国の新十条の発表後、毎日のように突きつけられる「『安心出行』を廃止すべきだ」の声に、盧局長は「このアプリは中国の精密機器メーカー・華為(ファーウェイ)のアプリ開発者大会でも賞を獲得した『優秀なアプリ』だ」と言ったり、「感染拡大防止にまだまだ重要な役割を担っている」などの理由を付けたりして、断固として抵抗を続けた。さらには、今後の免疫状態に応じてアプリの機能を調整し、別の役割を追加する考えもあることを強調した。

 しかし、12月13日になって李行政長官は「盧局長と話し合いの結果」として、翌日から施設出入り時の「安心出行」の読み取りを中止すると発表。その日午後に開かれた新措置説明の記者会見には、前日まで廃止を拒絶していた盧局長も姿を見せた。

 盧局長はそこで、飲食店入店時のワクチンパスポート提示は続ける必要があることを強調、スマホから同アプリを削除しないようにと何度も市民に呼びかけた。

中国政府が方針を大きく転換したことに、
香港の親中派はついていけていない

 それにしても、コロナ対策における中国政府の180度の態度変更は国内外の多くの人たちを驚かせた。その結果、コロナ禍の3年間に厳格で、また苛酷になり続けていた対策措置によって、経済的にも社会的にもすでに抜き差しならない事態に追い込まれていることも暴露された。

 この点を、「香港国家安全維持法」(以下、国家安全法)の施行以来、すっかり“中国頼り”になっていた香港政府と親中派は読み取れなかったようだ。実はこのところ、こうした香港親中派の中国に対する認識のズレが、立て続けに表面化しつつあるように見受けられる。