「子どもには、少しでも体によいものを食べさせたい!」ですよね。
でも、ごはんは毎日のこと。なるべくシンプルで簡単に済ませたいものです。
この連載では、『医師が教える 子どもの食事 50の基本』の著者で、赤坂ファミリークリニックの院長であり、東京大学医学部附属病院の小児科医でもある伊藤明子先生が、最新の医学データをもとに「子どもが食べるべきもの、避けるべきもの」をご紹介します。
不確かなネット情報ではなく、医学データと膨大な臨床経験から、本当に子どもの体と脳によい食事がわかります。毎日の食卓にすぐに取り入れられるヒントが満載です。
※食物アレルギーのある方は必ず医師に相談してください。

【小児科医が教える】子どものイライラや無気力が心配。そんな時に試してほしい「食べ合わせ」とは?Photo: Adobe Stock

日本は世界トップクラスの貧血大国

 世界のなかでも日本は、鉄が不足している貧血の人が多い国です。とくに、日本人女性の鉄の摂取量は年々減少傾向にあり、1日7.6mg。米国の成人女性の平均鉄摂取量は1日18.9mgです[*18]。

 これは日本の女性のやせ志向が強いことが原因の1つと考えられています。鉄は肉・魚に多く含まれますが、やせたくてダイエットするなかで、肉や魚など動物性のたんぱく質を十分に摂らなくなったのでしょう。これは子どもにも同じ傾向が見られます。

鉄が不足するとどうなるの?

 鉄はカラダに必要なミネラルです。不足すると、疲れやすい、めまいがする、朝なかなか起きられない、息切れするなどの貧血症状が現れます。それらの症状が出て初めて貧血に気づくことが多いのですが、体の症状として現れる前から、記憶力や情報処理速度の低下、いらだち、気力の低下など、脳機能に影響が出ていることがわかっています[*18]。

 お子さんがぼーっとしている、無気力の状態が続く、イライラしているなどの場合、鉄の不足を疑ってみてもいいかもしれません

動物性 + 植物性のセットが大事

 小松菜やほうれん草などの植物性の食材にも、鉄を含むものはあります。しかし、動物性(肉など)と植物性(野菜など)の鉄を一緒に摂らないと吸収率が下がります。また、動物性の鉄(ヘム鉄)の体内への吸収率が20%程度であるのに対し、植物性の鉄(非ヘム鉄)は2~5%です。肉と野菜を同時に摂取する必要があります。

 ここでいう吸収率とは、生体で吸収される量です。つまり、油で炒めたほうれん草100g中に鉄は1.2mg含まれていますが、その約1%だけが体内に吸収されるということです(一緒に牛乳を飲んでいないなど、諸条件がそろった場合)。含まれる鉄のすべてを吸収できるわけではないことを、知っておきましょう。

 鉄の食材として知られるひじきは、ヒ素を含むので要注意です[*16,17]。週1回程度にとどめましょう。また、鉄の食材を摂るときは乳製品と一緒に摂らないようにします。また、お茶、コーヒーと一緒に摂るのも避けましょう。

貧血だとケガの治りが遅くなる

 皮膚の再生には、たんぱく質、ビタミン、ミネラルが必須です。ミネラルの1つである鉄が不足していると、キズの治りが遅くなります[*19]。

 体内の鉄の状況は、血液検査ですぐにわかります。鉄と聞いてすぐに思い浮かぶHb(ヘモグロビン)は、赤血球中の「ヘモグロビン」というたんぱく質と鉄が結合したものの量を表しています。血液検査ではヘモグロビンだけでなく、フェリチン(貯蔵鉄)も診てもらえるとよいでしょう。鉄が不足するときは、まずフェリチンから少なくなります。つまり、ヘモグロビン値が正常でも、貯蔵した鉄が少ないことがあります[*20]。

 このほかにも『医師が教える 子どもの食事 50の基本』では、子どもの脳と体に最高の食べ方、最悪の食べ方をわかりやすく紹介しています。

(本原稿は伊藤明子著『医師が教える 子どもの食事 50の基本』から一部抜粋・改変したものです)

*16 横井克彦ら. ヒジキの摂取が生体に与える有害作用. 第25集 第25回日本微量栄養素学会学術集会.http://www.jtnrs.com/sym25/O_01.pdf (2022年11月20日)
*17 農林水産省. 食品中のヒ素に関するQ&A.
https://www.maff.go.jp/j/syouan/nouan/kome/k_as/qa.html (2022年11月20日)
*18 加藤陽子. 小児と思春期の鉄欠乏性貧血. 日内会誌. 2010 6月10日; 99(6):1201-1206.
*19 Ferris AE, et al. An overview of the relationship between anaemia, iron, and venous leg ulcers. Int Wound J. 2019;16(6): 1323-1329.
*20 WHO guideline on use of ferritin Concentrations to assess iron status in individuals and populations. WHO. 2020.