地球誕生から何十億年もの間、この星はあまりにも過酷だった。激しく波立つ海、火山の噴火、大気の絶えまない変化。生命はあらゆる困難に直面しながら絶滅と進化を繰り返した。ホモ・サピエンスの拡散に至るまで生命はしぶとく生き続けてきた。「地球の誕生」から「サピエンスの絶滅、生命の絶滅」まで全歴史を一冊に凝縮した『超圧縮 地球生物全史』(王立協会科学図書賞[royal society science book prize 2022]受賞作)は、その奇跡の物語を描き出す。生命38億年の歴史を超圧縮したサイエンス書として、西成活裕氏(東京大学教授)「とんでもないスケールの本が出た! 奇跡と感動の連続で、本当に「読み終わりたくない」と思わせる数少ない本だ。」、ジャレド・ダイアモンド(『銃・病原菌・鉄』著者)「著者は万華鏡のように変化する生命のあり方をエキサイティングに描きだす。全人類が楽しめる本だ!」など、世界の第一人者からの書評などが相次いでいる。本書の発刊を記念した著者ヘンリー・ジーへのオンラインインタビューの10回目。これまでの連載に続き、世界的科学雑誌「ネイチャー」のシニア・エディターとして最前線の科学の知を届けている著者に、地球生物史の面白さについて、本書の執筆の意図について、本書の訳者でもあるサイエンス作家竹内薫氏を聞き手に、語ってもらった。(取材、構成/竹内薫)
日本とイギリスの科学離れ
――日本では、若者の科学離れが進んでいます。イギリスでもそういうことが起きているのでしょうか?
ヘンリー・ジー:以前から問題になっています。実際には、10代で起こる問題だと思います。
小さな子どもたちは科学が大好きですから。
――ああ、それは日本でも同じですね。小学校のうちは科学が大好きなのに、いつのまにか、無関心になったり大嫌いになったり…。
ヘンリー・ジー:小さな子どもたちは恐竜が大好きで、触れてはいけないものに指を突っ込むのが大好きで、好奇心旺盛で、いろいろなものを探検するのが大好きです。
そして、それこそが「科学」の基本的です。他の世界に興味を持つこと。
しかし、ティーンエイジャーになると、なぜか科学は「クール」なものではなくなります。
テスト勉強で失われる好奇心
おそらく、科学は試験合格のために学校で学ぶものとみなされ、高校のカリキュラムに組み込まれるようになったからでしょう。
そして、試験に合格しなければならないので、好奇心が失われるのです。
これが、私のような人間が、試験に合格するためではなく、楽しみながら読めて、しかも同時に何かを学べるような科学の本を書きたいと思うもう一つの理由です。
しかし、これは長年の問題であり、世界中で起こっていることです。
ティーンエイジャーは科学を「卒業」する傾向があります。私たちオタクな子どもたちだけが、大人になっても科学に興味を持ち続けることができるんです。
もちろん、科学は誰にでもできるものではありません。
科学に興味を持つために大切なこと
誰もが科学者になれるわけでもありません。でも、ニュースや時事問題、世の中で起こっていることを理解するために必要な知識は、一定レベル以上であるべきだと思います。
人々が科学にささやかな興味を持ち、一般誌に掲載されている科学ニュースを読み、イメージを持つことができれば、みんな幸せになれます。
例えば、ジェームス・ウェッブ宇宙望遠鏡の写真を見ると、「わぁ、すごい!」と感激しますよね。
この「すごい!」という感覚が、人々の科学への興味を持続させるのです。
「ネイチャー」シニアエディター
元カリフォルニア大学指導教授。一九六二年ロンドン生まれ。ケンブリッジ大学にて博士号取得。専門は古生物学および進化生物学。一九八七年より科学雑誌「ネイチャー」の編集に参加し、現在は生物学シニアエディター。ただし、仕事のスタイルは監督というより参加者の立場に近く、羽毛恐竜や最初期の魚類など多数の古生物学的発見に貢献している。テレビやラジオなどに専門家として登場、BBC World Science Serviceという番組も制作。このたび『超圧縮 地球生物全史』(ダイヤモンド社)を発刊した。本書の原書“A(Very)Short History of Life on Earth”は優れた科学書に贈られる、王立協会科学図書賞(royal society science book prize 2022)を受賞した。
Photo by John Gilbey
(本原稿は、ヘンリー・ジー著『超圧縮 地球生物全史』〈竹内薫訳〉への著者インタビューをまとめたものです)