出産費用は毎年1%前後上昇
一時金だけでは賄えないのが現状
日本では、病院や診療所で受ける医療のほとんどに、健康保険が適用されている。医療機関で受ける医療行為は、「療養の給付」といって、病気やケガの治療に必要な医療がすべて提供されることになっている。
治療にかかった医療費は、年齢や所得に応じて決められている一部負担金を除き、残りはすべて健康保険が負担してくれる。
だが、「妊娠や出産は病気ではない」という言説の下、妊婦健診や分娩費用などは、原則的に健康保険は適用されていない。
とはいえ、出産にお金がかからないわけではない。産婦人科のクリニックや病院、助産院などで出産する場合、数十万円単位の費用がかかるのが現実だ。そこで、1994年に創設されたのが「出産育児一時金」だ。
これは公的医療保険の加入者(被保険者)、または、その妻などの家族(被扶養者)が出産すると、定額の給付金が支給されるというものだ。それまでは分娩費と育児手当金という名目で給付金が支給されていたが、これを廃止。そして分娩介助料、出産前後の健診費用、育児に伴う初期費用などを総合的に勘案して、当時は子ども1人につき30万円の一時金が支払われることになった。
その後、分娩費用の上昇や、産科医療補償制度(分娩中の予期せぬ事故で、子どもが重度障害を負った場合の補償を行うもの)の創設に対応したりするために、徐々に出産育児一時金も引き上げられてきた。そして、2009年10月からは原則的に42万円(産科医療補償制度の掛け金を含む)となっている。
だが、実際の分娩費用は、年間平均1%前後増加している。厚生労働省によると、正常分娩の出産費用(全施設の平均)は、2002年に41万7000円だったものが、2021年には47万3000円まで上昇している。地域差はあるものの、全体的な傾向としては、出産育児一時金だけでは、出産費用を賄えない状態が恒常化していたのだ。
そこで、自民党の「出産費用等の負担軽減を進める議員連盟」の働きかけもあり、一時金の増額が検討されていた。