出産に健康保険の適用を含めた
「異次元」の見直しを期待
また、出産費用は地域によって大きな差がある。前出の厚生労働省の調査によると、2021年度の平均が、鳥取県の35万7443円、佐賀県の35万7771円、沖縄県の36万7318円、奈良県の36万9287円のように、30万円台という県もある。
その一方で、東京都は56万5092円、神奈川県は50万4634円、茨城県は50万1889円で、出産育児一時金の42万円を大きく上回っている。
この金額は、あくまでも平均だ。医療機関によっては60万~70万円といった分娩費を設定しているところもある。また、有名人御用達のブランド病院などは、室料差額なども含めて100万円を超えるといったケースもある。こうした高額な出産費用でも、あえてブランド病院で出産することを望む富裕層なら許容できるだろう。
だが、産科医が不足している地域では、経済的に余裕がなくても、他に選択肢のないなかで、仕方なく費用の高い分娩施設を利用している人もいる。たとえ出産育児一時金が50万円になっても、出産費用は持ち出しになってしまうので、せっかくの引き上げも、効果を実感するのが難しい。
確かに妊娠や出産は、ヒトとしての自然の営みのなかで起こることで、病気ではないかもしれない。だが、多くの人が医療機関で、医療の手を借りながら出産するようになった今も、「妊娠や出産は病気ではない」という理由を盾に、健康保険の適用から除外し続けることに、筆者は違和感を覚えざるを得ない。
妊娠・出産が病気でないなら、不妊治療も健康保険から除外し続けなければならないはずだ。だが、こちらは、2022年から一定の要件の下で保険適用が始まっている。
少子化対策として、出産費用にてこ入れするなら、病気やケガの治療と同じように、「いつでも、どこでも、だれでも」公平な負担で出産できる体制を整える必要があるのではないだろうか。
「異次元の少子化対策」をうたうのであれば、妊娠・出産に関する費用についても、健康保険の適用を視野に入れるなど、「異次元の」見直しを期待したい。