創業9年目で売上300億円と、急成長を遂げている家電メーカー、アンカー・ジャパン。そのトップに立つのは、27歳入社→33歳アンカーグループ最年少役員→34歳でアンカー・ジャパンCEOに就任と、自身も猛スピードで変化し続けてきた、猿渡歩(えんど・あゆむ)氏だ。「大企業に入れば一生安泰」という常識が崩れた現代、個人の市場価値を高めるためには「1位にチャレンジする思考法」が必要だと猿渡氏は語る。そんな彼が牽引してきたアンカー・ジャパンの急成長の秘密が詰まった白熱の処女作『1位思考──後発でも圧倒的速さで成長できるシンプルな習慣』が話題となっている。
そこで本書の発売を記念し、ビジネスパーソン「あるある」全20の悩みを猿渡氏にぶつける特別企画がスタートした。第11回目は、「転職後に活躍できない人の特徴」について聞いた。(構成・川代紗生)
転職後に活躍できず落ち込む…
その原因は?
──転職後に思ったような成果を出せず、ストレスを抱えてしまう人も多いようです。
新しい職場で活躍するために、どんなことを意識したらいいでしょうか?
猿渡歩(以下、猿渡):「アンラーニング」の意識が特に大事だと思っています。
「学び捨て」や「学びほぐし」という言い方をすることもありますが、「アンラーニング」とは、これまで学んだ知識や習慣を意識的に捨てること。
人間の脳の記憶容量は限られていますから、古いやり方や習慣をどんどん捨てていかないと、新しい知識が入ってきません。
特に転職して新しい職場環境で働く場合、新しい仕事の連続です。
となると、意識的に「アンラーニング」していかないと、学びのスピードが遅くなってしまいます。
『1位思考』の中でも紹介しましたが、羽生善治さんの著書『直感力』(PHP研究所)にはこんな言葉があります。
「いつも、『自分の得意な形に逃げない』ことを心がけている。
戦型や定跡の重んじられる将棋という勝負の世界。
自分の得意な形にもっていければ当然ラクであるし、私にもラクをしたいという気持ちはある。しかし、それを続けてばかりいると飽きがきて、息苦しくなってしまう」
──羽生さんが書かれているとおり、意識していないとつい「自分の得意な形」に逃げたくなってしまいますね。
猿渡:キャリアを積めば積むほど、成功体験が増えれば増えるほど、「自分の得意な形」を信じたくなってしまい、「アンラーニング」が難しくなっていきます。
転職して、元の会社で成功した経験が100%活かせると思っている人は、さすがにあまりいないでしょう。
それでも、「7割程度は活かせるだろう」という心構えで仕事に挑み、これまでのやり方を踏襲したら失敗した。こういうケースは多いと思います。
「3割くらいのアンラーニングが必要だろう」と思っていたら、実際には7割のアンラーニングが必要だった。自分の「得意な形」がほとんど通用しなかった。転職後、活躍できず悩んでいる人には、もしかするとこういうことが起きているのかもしれません。
痛い目に遭って気づいた
「アンラーニング」の重要性
──猿渡さんがアンラーニングを意識し始めたきっかけは、何かあったのですか?
猿渡:失敗経験がきっかけです。
たとえば、大手ECモールのロボット掃除機部門において「数値シェア1位を獲得したい」という目標があったのですが、当初予定していたよりも、かなり時間がかかってしまいました。
これは、まさに「過去うまくいった方法」を踏襲したために起きたことです。
モバイルバッテリー部門でシェア1位を獲得したときと似た戦略を立てたのですが、モバイルバッテリーとロボット掃除機では、製品特徴も単価もまったく違う点に着目することができませんでした。
モバイルバッテリーではスペックと価格のバランスで購入いただく方も多かった一方、ロボット掃除機は、「購入後の安心感」を伝えることも重要でした。
うまくいった方法は
あくまでも仮説の一つ
──成功体験をもとに立てた戦略が外れてしまうこともあるのですね。
猿渡:前提が一つ変わればすべてが変わると考えています。
これは、個人のキャリアに関しても同じです。
私も以前、コンサルのやり方でファンドの仕事、ファンドのやり方でアンカーの仕事を行い、重要なポイントを見落としてしまったことがありました。
社会人経験が長くなればなるほど、所属する組織で培ってきた習慣に頼りたくなってしまいます。
うまくいった方法はあくまでも仮説の一つ。
成功体験を次の一手の候補として持っておくのはいいですが、いつだって使えるわけではありません。
古くなった打ち手を適度に捨てることで、新しい学びができるようになります。
誰しも、しっくりとなじんだ使いやすい武器を手放すのは、怖いものです。
つい「過去こうだったから、今後も変えずに同じことをやったほうがいい」と考え、慣れた戦略に逃げてしまいがちですが、それこそ成長しない人の考え方です。
現在1位の企業でも、1位になった方法は刻々と古くなっています。
それを常に意識し、成功体験に頼りすぎない戦略が大事だと思っています。
(本稿は『1位思考』に掲載されたものをベースに、本には掲載できなかったノウハウを著者インタビューをもとに再構成したものです)