終電ギリギリまで残業しているのに仕事が終わらない人と、必ず定時で帰るのに成績No.1の人。この差はいったい何だろう? 努力が成果に反映されない根本的な原因はどこにあるのだろうか? そんなビジネスパーソンの悩みを本質的に解決してくれるのが大注目の新刊『時間最短化、成果最大化の法則──1日1話インストールする“できる人”の思考アルゴリズム』だ。
著者は、東洋経済オンライン「市場が評価した経営者ランキング2019」第1位、フォーブス アジア「アジアの優良中小企業ベスト200」4度受賞の北の達人コーポレーション(東証プライム上場)社長木下勝寿氏だ。
本書 の発売を記念し、ビジネスパーソン「あるある」全20の悩みをぶつける特別企画がスタート。経営の最前線で20年以上、成果を上げられる人と上げられない人の差を徹底研究してきた木下社長にロングインタビューを実施。第17回目は、「人材マネジメントのポイント」について、教えてもらった。(構成・川代紗生)

超重要な事を言いますが、「尻ぬぐい社員」こそ最も評価すべきです

ディフェンスを強くすれば一人勝ちできる!

──木下さんは2002年に「株式会社北の達人コーポレーション」を設立し、一代で時価総額1000億円企業に成長させました。

 人材配置で意識してきたことはありますか?

 営業や企画でどんどん攻めて得点をとれる「オフェンス」タイプ、事務や経理など地盤を固めてくれる「ディフェンス」タイプ……どんなバランスを意識してきたのでしょうか?

木下勝寿(以下、木下):私の経営の基本方針は「ディフェンス最優先」。

守りを強くすれば勝てる」という考え方です。

 スポーツにたとえるなら「負けない野球」。ガンガン攻めて点を取りにいく以前に、相手に絶対に点を取らせないという戦略です。

 守備を固めて相手を0点に抑えていれば、どこかで必ず相手にができて、1点を取れるタイミングがくる。

 やるべきことをコツコツ継続し、周りが勝手に自滅してくれるのを待つスタンスでやってきました。

 『時間最短化、成果最大化の法則』で示したのも、「ディフェンスさえしっかりしていれば一人勝ちできる」という思考法の提案です。長年続いている会社は絶対的にディフェンスが強いという特徴があります。

すぐ潰れる会社の共通点

──スタートアップ企業は「まずはどんどん攻めて、あとから守りを固める」というイメージがあります。

 売上を取ってこれる人のほうが評価されやすい印象もありますが、木下さんは社員評価や教育システムをどう構築されていますか?

木下:正直なところ、「守り」の仕事をしてくれる人をきちんと評価できない組織が生き残るのは、難しいと思います。

 たとえば、立ち上げたばかりの会社に多いのが、「営業力は高いが、数値管理が杜撰」なタイプ。

 そういう会社は、「売上は伸びているのに利益が出ていないから、もっとたくさん営業して売上を上げれば利益も上がるはず」と考え、オフェンス面をさらに強化しがちです。

 しかし、本質的な問題は、管理会計を元に利益から逆算した営業戦略に見直さない限り解決できません。利益が出ていない理由は利益率が低い受注ばかりをしていることだったとしたら、これを改善しないまま拡大していっても利益が出るようにはなりません。このように、ディフェンス面を整える努力を怠っていると、いつまで経っても利益が出る組織にはならず、疲弊していくのです。

 だから、当社で最も出世しやすいのは、一般的には「尻ぬぐい」といわれるような誰もやりたがらない「めんどうくさい仕事」をきちんとこなしてくれる人です。

 どれだけすごく面白い広告クリエイティブを作れたとしても納期通りに納品できなかったり、出稿設定を間違っていたり、結果に対する適切な分析修正ができないなどの欠落的欠点があれば、それをまわりの人が補わなくてはならない。

 そういう場合、派手な仕事をしていなくても「この人がいるからこの仕事は円滑に回っているのだな」という人が補ってくれています。

 そういう「縁の下の力持ち」を評価できる経営者でありたいと思っています。

驚きの効果!「欠落的欠点」を修正する独自研修

──ディフェンス面を整えるためにいろいろな取り組みをされていると思いますが、そのうち、特に有効な方法は何かありましたか?

木下本書でも詳しく解説した「欠落的欠点」を修正する研修は、効果が高かったと思います。

 人は、自分の欠点から無意識に目を逸らしてしまいがちです。

 しかし、先ほども言ったように、どんなに営業スキルの高い人でも、遅刻グセやケアレスミスが直らなければ、まわりの人が必ず尻ぬぐいをし続けなければなりません。

 経営者としては、「尻ぬぐい役」の社員をそばに置いておかないと不安なので、永遠に独り立ちできません。

 欠落的欠点がある限り、せっかくの長所を台無しにしてしまい、長期的に活躍できるビジネスパーソンにはなれないのです。

 そのため、当社では、日頃一緒に働いているメンバーで5~6人のグループをつくり、

1.自分の欠点と、チームメンバーの欠点を把握する
2.自己認識と他者認識の違いを理解し、受け入れる
3.欠点克服のための解決方法を考え、アクションを起こす

 という流れで研修をしています。

「欠落的欠点」は、まわりから見るとまるわかりなのに、当人だけが意識できないというやっかいな特徴があるので、それを自覚してもらうための研修を行うわけです。

──たしかに、自分の欠点って言われないとわからないですよね。それを互いに教え合うシステムは、個人としてもありがたいと思います。

木下:「他人は知っている」けれど「自分は気づいていない」、“ジョハリの窓”(下の図)でいう「盲点の窓」にこそ「欠落的欠点」が隠されていて、それさえ修正すれば一気に長所が活きるようになります。

超重要な事を言いますが、「尻ぬぐい社員」こそ最も評価すべきです(『時間最短化、成果最大化の法則』175ページより)

木下:当社の多くのメンバーは、「自分の『思考アルゴリズム』を書き換えよう」という気持ちで、「欠落的欠点」の修正を前向きにとらえています。

 改めて考えても、この研修はとても効果を発揮してくれるものだと思います。

「攻めは強いが、守りが弱い」というマネジメントの悩みを持つ方に、試してもらえたら嬉しいですね。

(本稿は、『時間最短化、成果最大化の法則』に掲載されたものをベースに、本には掲載できなかったノウハウを著者インタビューをもとに再構成したものです)