仕事でつながった関係を深める「連立方程式」

 社会に出ると損得勘定を抜きにした人間関係はできないとよく言われます。どうしても利害が絡むので、学生時代の友人のような関係は難しいと。

 これは、半分は本当で半分は嘘です。仕事の関係であっても、いやむしろ仕事を通じているからこそ、互いを信頼し、リスペクトし合える深い人間関係になることがあります。そこには単なる仕事での付き合いを超えた、仲間意識のようなものが芽生えたりします。

 作家という立場で編集者やライターの人たちとの付き合いが私自身ありますが、その中で信頼できる人が何人かいます。単なる利害関係や損得勘定ではなく、いろいろなことを相談できる相手でもあり、私もその人たちのために何かできることがあればできる限りのことをします。

 たしかに学生時代のようにまったく利害関係のない友情とは違います。しかし、私にとっては大切な仲間であり、ある意味、仕事を超えた関係であることも確かなのです。

 逆に、社会人でありながら利害関係のまったくない友達ばかりだとしたら、むしろ問題でしょう。趣味やサークルでの仲間ということになるかもしれませんが、果たして肝心の仕事をちゃんとしている人なのかどうか? 私からしたら、むしろあまり信頼できない人物ということになります。

深い人間関係の典型的な例は「社内結婚」

 社会人であるからには、まずは仕事としっかりと向き合っているかどうかが基本だと考えます。それができない人は、人間関係に関してもしっかり向き合える人かどうか怪しいものです。社会人だからといって利害を超えた関係は築けないと決めつけるべきではないというのが、私の実体験からの結論です。

 極端な話、社内恋愛で結婚するというのは、本来仕事を通じての利害関係であったものから、深い人間関係に到達した典型的な例でしょう。結婚でなくとも、仕事を通じて知り合った人が、一生の付き合いになることもあります。そういうことを前提にして、仕事で良好な人間関係、深い人間関係を築くには、上手に「連立方程式」を作ることができるかにかかっていると思います。

 テイク&テイクでは絶対によい関係は築けません。例えばここにオレンジが一個あるとしましょう。相手は実を食べたいと思っている。自分も実を食べようと思ったら奪い合いになるかもしれません。そこで自分はマーマレードの作り方を知っているから、実の方は相手にあげて、自分は皮をもらってマーマレードを作ることにする。こういう形でお互いが、ある条件の下でプラスになるための連立方程式を作ることが大事になります。

 これが上手にできる人が、大人の友情を育むことができる人です。利害から始まった関係が次第に変質して、より深い一歩先の関係へとつながっていくのです。