「言葉の裏にある背景や景色を共有できているでしょうか?」
そう語るのは、これまでに400以上の企業や自治体等で組織変革の支援をしてきた沢渡あまねさん。その活動のなかで、「人が辞めていく職場」に共通する時代遅れな文化や慣習があると気づきました。
それを指摘したのが、書籍『組織の体質を現場から変える100の方法』。社員、取引先、お客様をうんざりさせる「時代遅れな文化」を指摘し、現場から変えていく具体策を紹介。「まさにうちの会社のことだ!!」「これって、おかしいことだったの!?」と、多数の反響があり話題に。この記事では、本書より一部を抜粋・編集し、「対話ができない職場」を変えていく方法を紹介します。
「対話らしきもの」で満足している組織
あなたの職場では、対話ができているだろうか?
たとえばあなたが、ある企業の営業部門の社員だと仮定する。
マネージャーから来月に1000万円の売り上げを作るよう目標を示された。「1000万円なら楽勝」と思う人もいれば、「1000万円はしんどい」と思う人もいるであろう。1000万円の売り上げ目標という事実に対して、相手によって受け取り方、すなわち意味は異なる。
翌日、あなたはマネージャーにこう伝えたとする。
「1000万円はちょっとしんどいです」
次の瞬間、マネージャーはあなたに能力がない、やる気がないと判断し、くどくどと説教をする。あるいは「わかりました」とだけあなたに伝え、自分が代わりに動いて1000万円を売り上げる。
あなたは自分の意見を正直に伝え、相手も耳を傾けて聞き入れた。
しかしこれは、対話なのだろうか?
これであなたは、幸せだろうか?
発言された内容だけを見ていないか
「1000万円はちょっとしんどいです」
その言葉にはさまざまな背景や事情が考えられる。
はじめて取り扱う商材だから、いきなり1000万円は難しい。あるいは通常なら1000万円は高い目標ではないのだが、来月はたまたま家族の入院立ち合いが予定されているため難しい。だから目標金額を下げてほしい、あるいはサポート役をつけてほしい。
そのような背景や事情、組織への期待が含まれているかもしれない。
これを把握することなく、マネージャーが一方的に「能力がない」と判断し、勝手にコトを進めてしまうのはどうなのだろうか。
せめて相手に相談してからコトを起こすべきだろう。
見ている「景色」を合わせよう
お互いの期待役割(相手にどう振る舞ってほしいか)を伝え合い、聴き合う。その上で行動する。そのような対話の呼吸を習慣化していきたい。
対話とはすなわち、意味・背景・期待役割を伝え合い、相手と景色を合わせるコミュニケーションであり、そのゴールは相互理解である。
筆者はこの所作を「景色合わせ」と呼んでいる。
お互いの背景や事情、ものごとの見方や捉え方が違うことを理解し合うことだ。対話とは、表面上の言葉を交わす行為ではないのだ。
対話の段階で結論を急ぐ必要はない。まずはお互いの景色を丁寧に合わせる。そのためには、まず聴く。そして良い/悪いなどの価値判断をしない。それらの行動が重要だ。
「対話ラブル」な職場に変えていく
対話を苦手とする組織、あるいは対話ができていると思っているがうまくいっていない組織は多い。
株式会社NOKIOO(静岡県浜松市)が全国の企業のマネージャー・リーダーおよそ1100名に実施した調査によると、対話の意味を正しく理解している人の割合は1割に満たなかった。
また、対話の効果を事業運営のなかで実感している人も1割程度だった。裏を返せば、対話の習慣を正しく身につけることで組織のコミュニケーションや文化が改善する余地は大きいということだ。
対話を個人のセンスや相性の問題で片づけようとする人たちもいるが、それは早計である。対話の問題は仕組みや仕掛け、および技術で克服できる。
筆者は対話が生まれやすい状態を「対話ラブル」と呼んでいる。あなたの組織に対話ラブルな景色を増やすための着眼点を手に入れよう。
(本稿は、書籍『組織の体質を現場から変える100の方法』の内容を一部抜粋・編集して作成した記事です。書籍では、「対話ができる組織」にするための具体的な方法も紹介しています)