「外国のエンジニアの話」と
割り切ってはいけない
さて、このわずか1~2カ月の間にアメリカのIT大手は、次々と大規模なリストラを発表しています。
アマゾンが1万8000人の削減、グーグルが1万2000人、メタが1万1000人、マイクロソフトが1万人といった具合の削減規模です。ちなみにGAFAMの中で、アップルだけはiPhoneによる復活後は目立ったリストラをしていないことで有名です。念のため。
アメリカではこの1月の人員削減規模は10万人を超えたと発表されていて、その4割をIT企業が占めているそうです。しかしここがアメリカ社会の面白いところで、たとえばIT企業を解雇された人の8割近くは3カ月以内に再就職できているともいいます。
GAFAMのようなIT大手を解雇されても、ユニコーン企業、ITスタートアップ、ないしはDXを推進したい小売、製造、金融といった大手企業へすぐに転職できる。ITエンジニアにはその専門性を活かせる職場はいくらでもある様子です。
冒頭のZoomの場合、コロナ前の2020年1月の従業員数は2532人だったそうですが、コロナ禍で需要は急激に増え、直近では従業員数が8600人まで増えていたそうです。それでリストラが必要になり、この先は従業員数が7300人に減るというのが冒頭のニュースです。
そのように捉えると、大量の人員解雇だからといってみても、数字の上からは「西海岸(シリコンバレー)戦線異状なし」という平穏な事象に見えてきたりもします。GAFAMのリストラ規模は総じて全従業員の5%程度の話になるため、なおさら全体像としては大変化には見えないのです。
では、なぜアメリカのIT大手がそろって大規模なリストラをしているのでしょうか。
先週末、GAFAM5社の2022年10~12月の業績が5社ともに2桁の減益となったことが話題になりました。理由は新型コロナウイルスによるIT特需の刈り取りはほぼ終わったこと、世界経済の減速の影響が色濃くなってきたこと、そしてこれまでの特需を支えてきた低金利マネーの供給が利上げによって消滅したことです。
IT大手の経営者はこの状況で増益に転じるためには「膨らんだ従業員をスリム化するのが一番早い」ことをよくわかっていて、それを今回実行しました。これがひとつの全体像です。大手ITは少しだけ人員カットをして、そのカットされた人員は他の成長分野へと流出する。シリコンバレー戦線全体には大きな異状はありません。
しかし、実は同時並行である怖いことが進行しています。解雇された人々が活躍することで、「あるタイムリミット」が早まりました。いつかは来ると言われていた「怖い現象」が、私たちのすぐそばまで来ているのです。