女性集団と比較して男性集団の特徴として挙げられるのが上下関係である。男性集団の上下関係にもさまざまな形態があるが、ひとつ特徴的なのが、男性は上下関係に基づいて親しさを形成する場合があるという点だ。秩序立った上下関係を前提にして、上の者が下の者を指導保護し、下の者が上の者に依存するという親しい関係がつくりだされる。

 典型例には、1960~70年代に男子体育会系クラブを描いた青春シリーズドラマが挙げられる。65年に始まった夏木陽介主演『青春とはなんだ』と翌年の竜雷太主演『これが青春だ』。続く1971年の森田健作主演『おれは男だ!』や、75年から始まった中村雅俊主演の『俺たちの旅』『俺たちの祭り』などの「俺たち」シリーズ。

 これらのドラマでは、明確な上下関係にある先生、先輩、後輩が、四六時中一緒に過ごし、スポーツの汗と涙を通して「青春」を分かち合う密着した親しさが強調された。これが、上下関係の中で醸造される男の親しさである。

 当然、このように秩序立った上下関係においては、下の者は上の者に敬語で話し、上の者は下の者には敬語を使わないことで階層を維持していた。敬語によって上下の距離を維持することは、上下の男性同士が同性愛関係にあると解釈される可能性を排除する働きもしただろう。

若い男性が感じるジレンマと
距離感を縮める新たなスタイル

 しかし、先に見たように、1990年代に入ると、敬語を使い分ける基準がますます上下関係から親疎関係へと変化した。敬語が、相手への敬意よりも距離感を表現してしまう場合も出てきた。へたをすると、相手に「壁」を感じさせてしまう可能性も出てきたのだ。

 それでも、若い男性は、敬語を使わないわけにはいかない。なぜならば、年齢は男性集団の上下関係を決定する重要な要件の一つであり、若者はその下位に位置付けられることが多いからだ。

 ここに、若い男性のジレンマが生じる。先に述べたように、男性集団には組織的な上下関係にもとづく親しさが求められる。先輩との上下関係を維持するためには、敬語を使って上下の関係を明確にしておくことが求められる。しかし、敬語を使うと相手と距離をとりたいのだと解釈されかねない。親しさを演出するためにはこの距離感を縮める新しいスタイルが必要になった。