メールや文書、プレゼン……自分の伝えたいことを言葉にするのは難しい、と思うことはないだろうか。「言いたいことがまとまらないし、相手に伝わらない」と思う人は、まずは「自分がもっとも言いたいことは何か」をつかむことが大切。そう話すのは、コピーライターとして活躍する坂本和加氏だ。坂本氏は「カラダにピース。」「行くぜ、東北。」「WAON」など数々の名コピー、ネーミングを生み出している。2023年2月15日発売になった『ひとこと化──人を動かす「短く、深い言葉」のつくり方』(坂本和加著)では、自分の思考を深めて「ひとこと」に凝縮する方法を徹底的に伝授。坂本氏が20年以上のキャリアで身につけた、「言葉化」のための思考法、技術を余すところなく紹介している。リモートワークの普及でますます言語化する能力が求められる昨今。今回は本書の発売を記念して特別に一部内容を再編集、抜粋して紹介する。
物事を進めるときに必須の「寄り添う力」
商品のネーミングやキャッチコピー、スローガンなどをつくる場合は、発注元の企業との打ち合わせで言葉を決めていきます。その際に必要なのは「寄り添う力」です。
「人に寄り添う」というと、みなさんはどんな会話をイメージしますか?
「そうですよね」「わかる」と共感を示すような寄り添い方もありますが、もっともっと深く踏み込んだ寄り添い方が、私はあると思います。
こころを大きく動かされた、医師の「ひとこと」とは?
私がかかりつけ医に通っていたときのことです。
いつもとちがう症状があったので、医師にそれを伝えたことがありました。
私の症状を聞いた医師がそのとき「心配だなあ」とつぶやいた。
そのひとことに、私はとても驚いたのです。いまだにこうして思い出すくらいです。
その医師がまるで「家族のことのように心配してくれた」のがうれしかった。
彼は思ったことを伝えただけだと思うのですが、仕事だとわりきっていたら出ないひとことです。
そこまで踏み込んで診療をしてくれるような医師に、私はその後も出会ったことはありません。
今はとてもよくわかるのですが、「寄り添う」とは、「自分ごととして考えること」だと思います。
私が打ち合わせで一番こころがけているのは、この「自分ごと化」です。
「自分ごと化」できる人は話が早い
どうやって自分ごと化するかは、「自分だったら目線」をどれだけ持てるかです。
自分のことのように話を聴いていけばたくさん情報が出てくるし、話が早い。
スポンジのように知識を吸収して、あっという間に「仕事ができる人」になっていく人は自分ごと化がとてもうまい。仕事でいろいろな方を見てきたので、そう確信しています。
それに、相手を思いやる力、つまり想像力がアップし、言葉にする力も飛躍的に伸びます。
話を聴くときには「もしも自分が相手の立場だったら」を徹底して聴く。
頼まれているのは自分ではない場合でも、「自分がやる」「自分だったら」と思って話を聴く。
それだけでも仕事に対する姿勢そのものが変わります。
(*本稿は『ひとこと化──人を動かす「短く、深い言葉」のつくり方』より一部抜粋、再編集したものです)
合同会社コトリ社代表
文案家(コピーライター)/クリエイティブディレクター
大学を卒業後、就職氷河期に貿易商社へ入社。幼少期から「書くことを仕事にしたい」という漠然とした思いがあり、1998年にコピーライターに転職。最初の2年は150字程度のPR文をひたすら作成していたが、まったく書けなくて徹夜の日々。「キャッチコピーらしいコピーを書きたい」という思いが芽生え、数社の広告制作会社を経て、2003年に一倉広告制作所に就職。師匠である一倉宏氏に「お前のコピーは長い」「頭で書くな」と言われながら、「ほんとうに伝えたいこと、伝えるべきことはなんなのか」を深掘りすることで、だんだんと「短く、深いコピー」が書けるようになった。2016年に独立し、現在は合同会社コトリ社代表。
本業に加えて、自身のキャリアを通して身につけた「ひとこと化」の考え方、技術はどんな人にも役立つと考え、32歳のときから、企業・学校団体向けにコピーライティング技術を用いたワークショップを行っている。本書では、その「ひとこと化」の考え方・技術を余すところなく紹介。主な仕事に、「カラダにピース。」「行くぜ、東北。」「WAON」「イット!」「健康にアイデアを」「こくご、さんすう、りか、せかい。」などがある。受賞歴に毎日広告デザイン賞最高賞ほか多数。著書に『ひとこと化──人を動かす「短く、深い言葉」のつくり方』(ダイヤモンド社)、『あしたは80パーセント晴れでしょう』(リトルモア)ほか。東京コピーライターズクラブ会員。日本ネーミング協会会員。