資本主義や中央集権制度が人々を不幸にしている
四角 僕が、ラディカルな考えを持っていたことはお話しした通りです。資本主義や中央集権制度が、人々を不幸にしているんじゃないかって。ニュージーランドを拠点に、SNSをフル活用して世界で移動生活を送っていた時期(2014~2019年)、過剰供給されるネガティブ情報にやられてしまい、人類の未来に絶望しかかっていたんです。
そんなある日、なりたくないと思っていたシニカルなヒッピー思想に、僕自身が陥りつつあることに気付いた。これが、先に話した2019年末に仕事をグレートリセットするきっかけの一つになったんです。勉強を再開して、自分の思想をアップデートしないと危ないと。
山口 へえーっ。
四角 周さんがさっき「実践しているからこその気合いがある」とおっしゃってくれましたが、それまでは、実体験だけをベースに本を書きたいという、強いこだわりがあったんです。だからか、自分で本を書くようなってから、読書をしなくなっていた。
山口 ふむふむ。
四角 もしかしたら…古い知識、科学的根拠のない俗説、変な思い込みだけで執筆活動しているかもしれない…だとしたらマズい。昔のようにたくさんの本を読もう、その時間を捻出するためにも作家業だけに専念しようと決意したんです。
むさぼるように本を読む中で出会ったのが周さんの著書たちで。やはり『ビジネスの未来』が一番好きなんですが、『世界のエリートはなぜ「美意識」を鍛えるのか? 経営における「アート」と「サイエンス」』もすごく好きで。一番売れたのがこの本でしたっけ?
山口 そうですね。部数が一番出たのは『美意識』ですね。
四角 今日最初にご挨拶したときに、周さんが『超ミニマル主義』を指して「こういう、まっとうな本が売れる世の中になったんですね」って言ってくださったけど。むしろ僕は、『美意識』のような本がベストセラーになるって、世の中捨てたもんじゃないと思っていました(笑)。
山口 確かにそうかもしれないですね。僕が『美意識』を書いたころは、世の中に“マッキンゼー流ほにゃらら本”があふれていて、煽る系の本が多くてね。丸の内のオアゾに丸善があるじゃないですか。あそこの1階のビジネス書のコーナーがすごい嫌で。
四角 (笑)
山口 ダイヤモンドオンラインの取材でこんなこと言うのは何だけど、「これをやらないと、もうあなた破滅」みたいなタイトルの本が多すぎませんか?(笑)。タイトルだけで疲れちゃうなあと思って。だから、2階にスーッと行って、まずは人文系のコーナーに行くようにしている。
四角 なるほど~。
山口 本に関してはいろいろな出版社から声をかけていただいたんですけれど、どこも「外資コンサルのメモ術」みたいなのばかり書いてくれというんです。そういう問題意識を、『美意識』にぶつけたつもり。もしこの本が全く売れなかったら、「なんとかメモ術」とか「なんとか発信術」とかを1年に50冊くらい書き散らしてやろうと思ってたんですけれどね(笑)、幸いちゃんと受け止めてもらえたので、踏みとどまれた感じですね。
四角 そのくらいの気迫で書かれた本だったのですね。
山口 そうなんです。でも、やさぐれちゃうことってないですか? ソーシャルメディアの反応とか、本のあのレビューとか。
四角 落ち込みますよ。Amazonや楽天のレビューとかホントひどい(笑)。でも周さんもやさぐれたりするんですね。
山口 ありますよ。だからSNSのアプリは携帯に入れてないです。まさに、この『超ミニマル主義』の考え方ですけれど、本当に重要な情報は知らせればいいし、本当にいいことを思いついたら「いいこと思いついた」と目的を持って起動すればいいし。
四角 さすがです。
山口 ただ何となく思いついたことをポンっと投稿するのって、時間の使い方として不毛だなと思って。しかもポジティブなことを言っているつもりなのに、ものすごいネガティブなことを言われたりとか。そこにアルコールが入っていたりすると、売り言葉に買い言葉になることもあって。
四角 へえーっ。
山口 そして翌朝に「いったい何をやってるんだ、俺は」と後悔する。入眠する前にイライラしているから、眠りのクオリティも下がっているはずなんですよ。愚の骨頂だなと思って、もうやめましたね。
四角 意外すぎて、なんかちょっと安心しました(笑)。Twitterの周さんの投稿が大好きで。いつも思慮深く、知識も豊富で勉強になるし。でも、周さんも人間なんだなって(笑)。僕にとっては「知の哲人」という存在でしたから。
山口 「Twitterを読むとハードパンチャーなイメージがあったんですけれど、実際会うとかなり違いますね」って言われることはありましたね。
四角 僕自身は、周さんの本を読んで、未来への希望を持てるようになり、人類の可能性を信じられるようになりました。ヒッピー的な文明否定にハマる寸前から、戻ってこられた。
そして『ビジネスの未来』を読んで、「ああ、なるほど」と納得した。特に「資本主義をハックする」って概念に強く感銘を受けました。その影響で、社会システムをリプレイスするのではなく、その真ん中から変えていこうという意識に変わったんですよ。
山口 ああ、それはよかったし、嬉しいですよ。
四角 実は、『超ミニマル主義』を書き上げたとき、1000ページもあったんですよ。その前半500ページのノウハウ部分をブラッシュアップして、一冊にまとめたのが本書です。
山口 へえーっ! 1000ページはすごい。
四角 残りの後半500ページは、この3年で集中的に読んだ本から得た知識に、僕の27年のビジネスキャリアでの実体験を掛け算させた内容になっています。もっとも影響を受けたのが周さんの著書と、斎藤幸平さんの『「人新世」の資本論』なんです。
周さんの「高原社会」理論と、幸平さんの「脱成長」理論をベースに、生産性向上のための生活習慣術、創造性とリベラルアーツの関係、お金に縛られない働き方、資本主義に依存しないライフシフト戦略などを解説しています。このまま『超ミニマル主義』の好調が続けば…続編として出したいなと(笑)。
山口 まあ、行くでしょう(笑)。
(対談 次回に続く)
*『超ミニマル主義』では、「手放し、効率化し、超集中」するための全技法を紹介しています。
執筆家・環境保護アンバサダー
1970年、大阪の外れで生まれ、自然児として育つ。91年、獨協大学英語科入学後、バックパッキング登山とバンライフの虜になる。95年、ひどい赤面症のままソニーミュージック入社。社会性も音楽知識もないダメ営業マンから、異端のプロデューサーになり、削ぎ落とす技法でミリオンヒット10回を記録。2010年、すべてをリセットしてニュージーランドに移住し、湖畔の森でサステナブルな自給自足ライフを営む。年の数ヵ月を移動生活に費やし、65ヵ国を訪れる。19年、約10年ぶりのリセットを敢行。CO2排出を省みて移動生活を中断。会社役員、プロデュース、連載など仕事の大半を手放し、自著の執筆、環境活動に専念する。21年、第一子誕生を受けて、ミニマル仕事術をさらに極め――週3日・午前中だけ働く――育児のための超時短ワークスタイルを実践。著書に、『自由であり続けるために 20代で捨てるべき50のこと』(サンクチュアリ出版)、『人生やらなくていいリスト』(講談社)、『モバイルボヘミアン』(本田直之氏と共著、ライツ社)、『バックパッキング登山入門』(エイ出版社)など。