部下の評価に使える二つのマトリックス

 このように書くと、中間管理職というのは何とも面倒で報われないポジションのような気がしてくるかもしれません。そのことを察知して、そんな面倒なことに自分の人生を割きたくないと考える、能力の高い若い人も少なくないようです。あえて出世を望まず、専門職のような一プレーヤーとして仕事をして、組織のシステムから一線を画そうとする。それも一つの選択ではあるでしょう。ただし、私からするとそれはもったいない。

 組織というのはピラミッドになっているので、ある程度の地位や立場にならないと見えてこないものがあります。管理職でしか体験できないこと、学べないことがある。上司となって部下を持つのは大変ではありますが、確実に自分を成長させてくれます。私個人の意見としては、部下を持つことで、人間に対する理解が深まり、人間の見方や対応の仕方を身に付けることができると考えます。

 部下を評価するにあたって私がよく勧めるのが、「能力と意志を軸にしたマトリックス」(図1)と「『仕事の成果』と苦楽のマトリックス」(図2)です。

 前者は人脈を広げる際に相手を見極める有効な方法ですが、部下に対しても使うことができます。

意思と能力のマトリックス(「君たちの生存戦略 人間関係の極意と時代を読む力」P.49より転載)図1.意思と能力のマトリックス(「君たちの生存戦略 人間関係の極意と時代を読む力」p. 49より転載) 拡大画像表示

 縦軸に能力値、横軸に意志を取ります。すると右上の第一象限が「やる気があって能力も高い」タイプ、左上の第二象限が「能力は高いのにやる気が低い」タイプ。左下の第三象限が「能力もやる気も低い」タイプで、これはもうどうしようもない。右下の第四象限は「能力は低いがやる気がある」タイプとなります。

 この四つの中でどれが一番問題になるか? 一見、第三象限の「能力もやる気も低い」タイプと思うかもしれませんが、違います。組織の中で最も問題が生じるのは、第四象限の「能力が低いにもかかわらず、やる気だけがあるタイプ」です。

 やる気だけはあるのでいろいろ取り組みますが、ところどころミスを犯したり、余計なことをしてしまう。かえって仕事を増やして周囲に迷惑を掛けるのがこのタイプです。ですから、上司としてはこのタイプの部下をどう押さえるかが一つのポイントになります。同時に、いかに本人のやる気に見合った能力を付けさせるかを考えないといけません。

 第二象限の人に対しては、そのままにしておくと確実に第三象限に移行します。そうならないようにモチベーションを高めるための対処が必要です。