管理職になることを恐れなくていい

書影『君たちの生存戦略 人間関係の極意と時代を読む力』(ジャパンタイムズ出版)『君たちの生存戦略 人間関係の極意と時代を読む力』(ジャパンタイムズ出版)
佐藤 優 著

 このように、これら二つのマトリックスを使って対応すれば、課題や問題点などがよく見えてきて、うまく対処することが可能になります。例えば部下のやる気を引き出すにしても、仕事が苦しいと感じている人と、能力が少し低い人とでは、インセンティブの与え方も自ずと違ってきます。

 前者には仕事が楽しくなるようなインセンティブが必要ですし、後者には能力の向上につながる方法を何かしら考える必要があります。これらを混同してしまうと、間違ったインセンティブを与えてしまうことになります。

 また、かりに「職場に馴染めません」と部下に相談されたとしましょう。ひと言に「馴染めていない」と言っても、例えばバーンアウト型とマイペース型でその意味合いは変わってきます。バーンアウト型の場合はメンタルケアが必要です。その上で組織のあり方や仕事の配分などを考えましょう。マイペース型の場合はもともと、性格や考え方が組織の論理に合っていない部分があるため、無理に順応しなくてもよいという選択肢もあるかもしれません。

 このように、マトリックスで分析することでタイプ分けができ、それぞれの問題や課題に対して、最適解に近いものが導けると考えます。

 特に期待している部下とどう付き合っていくか? これも先ほど触れた周囲の嫉妬をコントロールするという点で難しさがあります。その意味で、むしろ直属の上司と部下の関係であるときより、お互いが違う部署になったときがポイントだと思います。

 直属の関係ではなくなったときに、一緒に昼食を食べたり、お酒を飲んだりして情報交換をする。元部下の悩みを聞き、相談に乗る。直属の部下の一人だけを取り立てると、贔屓(ひいき)していると見られたり、人事考課に直接かかわってくることなので周囲もナーバスになる。それこそ嫉妬の対象になってしまうでしょう。ところが斜め上下の関係だと、たんに「気が合うんだね」くらいで済みます。

 私自身も外務省でいろいろ助けてもらったのは、直属の関係ではなく元上司のような斜め上の人たちでした。自分が上司になったときも、このような斜め上下の関係を大切にしてきました。

 組織の中では上に立たないと見えてこないものがあります。あなたがバリバリの技術職で専門職を極めるというのであれば、管理職の道を選ばず、ずっと現場で仕事を続けるというやり方もあります。

 ですが、総合職や一般職としてキャリアを積むのであれば、中間管理職になることを恐れないことです。上司という立場に立つことで、人間理解の方法を学び、組織の論理を学ぶことができる。それはどんなに本を読んだり、講義を受けたとしても学べない貴重なものです。なぜなら全て、実体験を通しての学びだからです。