民主党の中で割れる
逮捕同意案への対応

 他方、非李在明系の趙応天(チョ・ウンチョン)議員はラジオのインタビューで「逮捕同意案の否決を党論とすることに私は決然と反対する」「否決が適切かどうかというのは逮捕同意案の内容を見て判断すべき」「逮捕同意案に対して賛成を示唆する議員も少なくなかった」と述べた。

 逮捕同意案に対し、否決を党論とすることに対しては、親李在明系でも懸念の声が出ているという。金南局(キム・ナムグク)議員はラジオ番組で「党論を決める過程で小さな異見が大きな葛藤に増幅することもある」「非公開無記名投票なので、党論にしても誰が守ったか、守らなかったか分からない」と述べた。

 民主党よりも左寄りの正義党も慎重である。李貞味(イ・ジョンミ)代表は、国会で記者団と会い「不逮捕特権をなくすというのが正義党の党論であり、李在明代表の大統領候補時代の公約だ」「拘束される理由がないなら、令状審査で判断すればいい」との認識を示した。

 逮捕同意案は、在籍議員の過半数の出席、出席議員の過半数の賛成で通過する。中央日報によれば、国民の力(115議席)と正義党(6議席)、趙廷訓(チョ・ジョンフン)議員が逮捕同意案に賛成するものとみられ、民主党から28人の離脱票が出てくれば、李在明代表の逮捕同意案は可決される。

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 民主党がどれだけ結束して李在明代表を守れるか、今後の尹錫悦政権との攻防にも影響があろう。しかし、仮に党論で拘束し、李在明代表の国会会期中の逮捕を防いでも、李在明代表の容疑は重大であり、民主党の姿勢に対し、国民世論は厳しい視線を投げかけるであろう。

 李在明代表の疑惑は、文在寅政権時代からあり、大統領選挙敗北の要因でもあった。そして、尹錫悦政権の下で検察が本格捜査に踏み切ることは予想された。しかし、李在明代表は国会議員選に出馬、党代表にまでなった。

 大庄洞疑惑はもともと民主党とは関係のないところで起きた。しかし、李在明代表を国会議員にして不逮捕特権を与え、民主党の代表に選んだ。民主党は自らリスクを冒し、李在明代表を守る選択をした。

 しかし、それは民主党退潮の原動力となるかもしれない。

(元駐韓国特命全権大使 武藤正敏)