私がイライラしていた理由

 むかし、ネイチャー誌だけだった頃、本当にイライラしたことは、「専門的過ぎる」という理由で、良い論文をリジェクトしなければならなかったことです。

 そこで20年ほど前、私は進化生物学の専門誌を作ることを思いつき、それが最終的に『ネイチャー・エコロジー&エボリューション』誌となりました。

 ネイチャー・コミュニケーションズ、コミュニケーション・シリーズ、サイエンティフィック・レポート、これはどんな発見でも掲載できる雑誌で、特に公共の利益にならなくても、きちんとした発見であればサイエンティフィック・レポートに掲載することができます。

 私たちは、できるだけ早くすべてのデータを公開することを望んでいるので、その目的を後押しする素晴らしい方法だと思います。そして、現在では、オープンアクセスの出版モデルに移行しつつあります。これはますます急務の課題になっています。

 私たちは、購読者のみに限定された紙の雑誌化からオープンアクセスへ、時には非常に痛みを伴う移行を経験しました。現在、出版界は大変な激動の時代です。

 大規模なポートフォリオを持つことの利点のひとつは、さまざまな種類の出版を試すことができることです。つまり、私たちのジャーナルのうち、あるジャーナルで新しい出版方式を試し、その効果を確認することができるのです。

ネイチャーに送る論文に大切なこと

 私は、名前を聞いたこともない人から本当に良い論文をもらうのが大好きです。私たちは、アジア太平洋地域で非常に長い間、存在感を示してきました。東京には40年ほど前からオフィスがあります。現在では、上海に巨大な編集オフィスを構えています。日本、中国、オーストラリアに大勢の編集者が常在しているのです。

 ネイチャーに送る論文の正確なフォーマットについて心配される方がいます。私の考えでは、心配する必要はありません。私は「牛の横腹に書かれた原稿が来ても気にしない」と言っています(笑)。

 私が言いたいのは、大切なのは形式ではなく「あなたが何を言わなければならないか」ということ。コンセプトが斬新であればいいのです。

※本原稿は、2022/9/2に熊本大学国際先端医学研究機構で開催された第19回「SCIENCE and ME」の著者講演を元に、再編集、記事化したものです。
協力:熊本大学国際先端医学研究機構(IRCMS)

【世界の知性の白熱講義】世界的科学雑誌ネイチャーが「大切にしていること」とは?ヘンリー・ジー
「ネイチャー」シニアエディター
元カリフォルニア大学指導教授。一九六二年ロンドン生まれ。ケンブリッジ大学にて博士号取得。専門は古生物学および進化生物学。一九八七年より科学雑誌「ネイチャー」の編集に参加し、現在は生物学シニアエディター。ただし、仕事のスタイルは監督というより参加者の立場に近く、羽毛恐竜や最初期の魚類など多数の古生物学的発見に貢献している。テレビやラジオなどに専門家として登場、BBC World Science Serviceという番組も制作。このたび『超圧縮 地球生物全史』(ダイヤモンド社)を発刊した。本書の原書“A(Very)Short History of Life on Earth”は優れた科学書に贈られる、王立協会科学図書賞(royal society science book prize 2022)を受賞した。
Photo by John Gilbey