ここで、一つ振り返ってもらいたい文言がある。1922年にミッチェルが示した空爆戦略の一文だ。そこには、こう書かれていた。

「毒ガスはその土地に生きられなくするために使われ、焼夷弾は火災を発生させるために利用される」

 焼夷弾だけでなく、毒ガスによる空爆も有効だと示しているのだ。焼夷弾は周到に準備されていたことがわかった。はたして、毒ガスはどうだろうか。ミッチェルの戦略を忠実に継承していたアーノルドらは、やはり準備していたのだろうか。改めて日本への空爆計画に目を通してみる。すると、その恐ろしい計画は見つかった。

『日本への報復のガス空爆計画』。1944年4月に作られていた。内容を読んで、背筋が凍った。おぞましい文言が、淡々と事務的に書き連ねられている。

毒ガス攻撃の対象は7都市
日本人1450万人対象の戦慄

「ガス攻撃計画の主な目的は、犠牲者を最大にすることである。交通機関や公共サービスを麻痺させ、通常の空爆による被害からの回復を困難にさせ遅延させる。そして、焼夷弾爆撃のためにターゲットをより脆弱にすることである」

「可能な限り最大の効果を達成するために、ターゲットは人口密集地域および戦争遂行能力を支える重要機関のある都市部に絞る」

「ガス攻撃が日中に行われる場合は、都市部で最も混雑しているビジネス街の中心部、人口が密集する住宅街、および工業地区が最適である。攻撃が夜に行われる場合は、人口が密集する住宅街が望ましい。斟酌を加えてはならない」

 道義的な問題は全く考慮されていない。使用される毒ガスは、マスタードガスとホスゲンだった。どちらも第一次世界大戦で大量に使われ、多くの犠牲者を生み凄惨な結果を招いている。

 標的にされていた都市は7つ。東京、横浜、川崎、名古屋、大阪、神戸、八幡。それぞれの都市の地図が添えられていた。焼夷弾の空爆計画と同様に色分けされ、赤、ピンク、白、そして黄色の4色だった。黄色についての説明は見当たらなかったが、すべて港湾部に塗られていた。毒ガス攻撃で得られる“成果”については、次のように説明されている。