中国で日本式駐車場を展開しようとした
張氏は湖北省武漢市の出身で、2004年に「ものづくりの日本」に憧れ来日した。東京工業大学で工学博士を取得した張氏は専門の機械工学を生かし、中国市場で“日本生まれの機械式駐車場”を普及させるビジネスに乗り出した。
「当時の私のビジネスは、日本の企業とライセンス契約を行い、中国で“日本式駐車場”を拡販させようというものでした。2010年代までは、中国で行う“日本モデルのタイムマシン経営”に、誰もが商機を見いだそうとしていました」と張氏は振り返る。
しかし、このビジネスは結果としてうまくいかなかった。理由はメンテナンスだった。「中国には日本と同じような産業チェーンが空白で、フォロー体制がうまく構築できませんでした」と張氏は語る。
その張氏にとっての“第2幕”が、日本の時間貸し駐車場のDX化だった。
中国ではゲートでの認証とキャッシュレスが進み、一部では日本をしのぐ効率的な時間貸し駐車場が出現するようになった。「こうしたデジタル化を日本の駐車場で進めれば、メンテナンス不要の駐車場が実現する…」、そんな思いから張氏はビジネスの軸足を中国から日本へと移した。
しかし、日本の“壁”は分厚かった。「カメラで記録といっても逃げられるんじゃないの?」「キャッシュレスだと売り上げが減るのでは?」と、土地所有者は疑心暗鬼だった。しかも日本では、駐車場ビジネスは不動産、設備・機械、集金が一つの産業を構成するまでに成熟しており、張氏が構想するDX化はこれを一気にひっくり返すことにもなる。「まだ使える設備もあるのにそれを廃棄するのか」「キャッシュレスについて行けない人はどうする」など、抵抗する声も小さくなかった。
だが、張氏は「大胆にやらなければ変化は起きない」と、精算機さえも取り払ってしまった。
精算機という「ハードがあれば故障もある」というのも張氏の考えだった。精算機がある限り、集金業務やレシートのペーパー補充はつきもので、紙詰まりさえ起こす懸念もある。クレジットカードや各種ペイで決済をしようと思えば専用端末も必要だ。
「精算機というハードをなくせば、機械レス、ペーパレス、キャッシュレスが一気に実現する」と張氏は言う。そこにあるのは、「過去ではなく未来を展望したい」という無言のメッセージだ。