「1日3食では、どうしても糖質オーバーになる」「やせるためには糖質制限が必要」…。しかし、本当にそうなのか? 自己流の糖質制限でかえって健康を害する人が増えている。若くて健康体の人であれば、糖質を気にしすぎる必要はない。むしろ健康のためには適度な脂肪が必要であるなど、健康の新常識を提案する『ケトン食の名医が教える 糖質制限はやらなくていい』(萩原圭祐著、ダイヤモンド社)。同書から一部抜粋・加筆してお届けする本連載では、病気にならない、老けない、寿命を延ばす食事や生活習慣などについて、「ケトン食療法」の名医がわかりやすく解説する。

なぜ、和食が健康長寿につながるのか?Photo: Adobe Stock

和食は、長寿につながる「腸内細菌」を育てる

 最近の食品関係の研究で、注目すべきことは、短鎖脂肪酸の役割の発見です。少しだけ話が専門的になるかもしれませんが、大事なポイントなので、ぜひお付き合いください。

 この短鎖脂肪酸とは、酢酸、プロピオン酸、酪酸などの総称で、食欲の低下を防いだり、インスリンの分泌を補助したり、脂肪の蓄積を抑制するなど、様々な機能が知られるようになってきました。
これは、ダイエットにもアンチエイジングにも、とても重要な要素となります。

 この短鎖脂肪酸は、食物繊維を原料に、腸内細菌叢が生み出してくれるものです。まさに、腸内細菌からの贈り物と言えるようなものなのです。

 京都府立医科大学大学院医学研究科の内藤裕二教授のグループは、100歳以上の人が全国平均の3倍という長寿地域、京丹後市の高齢者の腸内細菌を調査しました。

 その結果、京都の都市部の住人に比べて、腸内に多かったのは「酪酸産生菌」で、それはこの地域でよく食べられるイモ類や海藻類、あるいはゴボウなどの根菜類や納豆などの豆類、特に「板わかめ」の出し汁を多く用いている結果ではないかと推測しています。

 この酪酸産生菌を育てるには、日本人の場合、お米のご飯と醤油、味噌、お漬物などの発酵食品の摂取が最適であることがデータとして示されつつあり、和食は長寿につながる腸内細菌叢を維持している可能性があるのです。

 いわゆる健康常識を踏まえると、糖質やカロリーのことばかりに気持ちが集中しがちですが、その前に腸内環境が整っていることが必要なのです。

 様々な研究でわかってきたのは、腸内細菌叢の種類も数も、豊富で多様性のあることが健康維持に直結しているということです。

 逆に、その多様性が低下していくディスバイオシス(腸内細菌の種類が減って、数も減っていくこと)になると、健康維持が難しいことも示されています。

 そもそも自己流のダイエットをすると、偏った同じメニューになりがちです。単調なメニューは、腸内細菌叢の多様性を低下させます。

 私たちは、お腹の中の菌群が様々な栄養素を分解してくれることで、体に必要な栄養素をとっています。ですから、その菌群が育っていないと、何を食べても体にとってプラスにならないのです。

萩原圭祐(はぎはら・けいすけ)
大阪大学大学院医学系研究科 先進融合医学共同研究講座 特任教授(常勤)、医学博士
1994年広島大学医学部医学科卒業、2004年大阪大学大学院医学系研究科博士課程修了。1994年大阪大学医学部附属病院第三内科・関連病院で内科全般を研修。2000年大学院入学後より抗IL-6レセプター抗体の臨床開発および薬効の基礎解析を行う。2006年大阪大学大学院医学系研究科呼吸器・免疫アレルギー内科助教、2011年漢方医学寄附講座准教授を経て2017年から現職。2022年京都大学教育学部特任教授兼任。現在は、先進医学と伝統医学を基にした新たな融合医学による少子超高齢社会の問題解決を目指している。
2013年より日本の基幹病院で初となる「がんケトン食療法」の臨床研究を進め、その成果を2020年に報告し国内外で反響。その方法が「癌における食事療法の開発」としてアメリカ・シンガポール・日本で特許取得。関連特許取得1件、関連特許出願6件。
日本癌治療学会、日本臨床腫瘍学会、日本臨床栄養代謝学会(JSPEN)などの学会でがんケトン食療法の発表多数。日本内科学会総合内科専門医、内科指導医。日本リウマチ学会リウマチ指導医、日本東洋医学会漢方指導医。最新刊『ケトン食の名医が教える 糖質制限はやらなくていい』がダイヤモンド社より2023年3月1日に発売になる。