「1日3食では、どうしても糖質オーバーになる」「やせるためには糖質制限が必要」…。しかし、本当にそうなのか? 自己流の糖質制限でかえって健康を害する人が増えている。若くて健康体の人であれば、糖質を気にしすぎる必要はない。むしろ健康のためには適度な脂肪が必要であるなど、健康の新常識を提案する『ケトン食の名医が教える 糖質制限はやらなくていい』(萩原圭祐著、ダイヤモンド社)。同書から一部抜粋・加筆してお届けする本連載では、病気にならない、老けない、寿命を延ばす食事や生活習慣などについて、「ケトン食療法」の名医がわかりやすく解説する。

【名医が教える】ケトン食と糖質制限食では、何がちがうのか?Photo: Adobe Stock

ケトン食についての素朴な疑問

 ケトン食は聞いたことがあるけれど、実はよく知らないという人が多いと思います。そこで、よくある素朴な疑問を以下にまとめてみました。

Q1.ケトン食は、糖質制限食と同じですか?

 ケトン食は、糖質制限食のことではありません。正確には、糖質制限食と高脂肪食の組み合わせになります。

「糖質制限」に関しては、実は、はっきりした定義がなく、2020年版の厚生労働省の日本人の食事摂取基準にもとづくと、糖質の最低必要量が1日に100gという記載があるので、1日の糖質摂取量を100g以下にした場合は「糖質制限」と考えられます。

 つまり糖質制限食では、1日の糖質量が10~100gまで大きな幅があります(1日10gの糖質量は、私が開発したがんケトン食療法で最初の1週間で摂取する量です)。主食のパンやお米を完全に抜いたとしても、実は、1日に摂取する糖質量は50g以上になります。

 ケトン食に際して必要な糖質制限量は、1日あたり少なくとも30g以下、私の開発した方法だと最初の1週間は10g以下まで制限します。そのために、専門の管理栄養士の先生に調味料までチェックしてもらいます。

 しかし、糖質制限だけでは、ケトン体は上がってきません。なぜなら、ケトン体をつくる材料である脂質が足りないからです。

 そこで、ケトン食においては、たくさんの脂質をとります。少なくとも1日120g以上はとります。厚生労働省の日本人の食事摂取基準では、脂質の上限量が食事の総カロリーにおける30%未満となっていますので、その定義は「総エネルギー量の30%以上を脂質から摂取すること」となります。

 つまり、医学的にはケトン食は「高脂肪食」と厳密な「糖質制限」の両方をやっていることになるわけです。

Q2.ケトン食とは、ケトン体を食べるのですか?

 これも意外とよく聞かれる質問です。ケトン食とは糖質制限と高脂肪食により、肝臓でのケトン体生成を促進する食事療法です。

 その結果、体の栄養環境が変化し、てんかんやがんなどの病気の治療に効果が見られます。ケトン体の一つであるβヒドロキシ酪酸をマウスに経口投与すると、確かにケトン体は上昇します。過去に、患者さんに投与され、臨床効果が検討されたこともあるようですが、現在までのところ、実用化には至っていません。

 私自身は、単純に、体の中のケトン体だけを増やしても、ケトン食療法のように臨床効果があるかは、疑問に思っています。なぜなら、体の中の様々なバランスが変化し、ケトン体が誘導されることが、驚くような臨床効果につながっていると思われるからです。

Q3.ケトン体の目標値はどれくらいで、どうやって測るのですか?

 ケトン食を始めて、実際、どれくらいまで血液中のケトン体を誘導しないといけないのか? みなさんに、よく聞かれることの一つです。

 血液中の総ケトン体は、通常、総ケトン体28.0~120μmol/L(マイクロモルパーリットル)くらいです。私の開発したがんケトン食療法のやり方では、最初の1週間で多い人なら総ケトン体が4000μmol/L台、少なくても2000μmol/L台まで上昇します。

 維持療法の時期でも1000μmol/L以上を目標にしています。

 実は、この濃度は、様々な基礎研究で用いられる濃度と一致しています。つまり、がん患者さんに応用する際には、少なくとも数千μmol/Lの血中濃度が必要だと思われます。

 難治性てんかんの患者さんでも、同様のケトン体の血中濃度が必要です。

 測定する方法は血液検査がおすすめです。どこの病院でも測定することができますし、最近では、血糖値を測る簡易キットで測定することもできます。検尿でも測定することはできますが、これは残念ながら、あくまで目安にしかなりません。

 では、他の病気でも、総ケトン体が数千μmol/Lの血中濃度が必要かというと、そんなことはありません。

 糖尿病の研究結果をもとにすれば、ケトン体が夕方から夜間にかけて上昇する生理的な誘導のリズムが取り戻せたら、総ケトン体が数百μmol/Lの血中濃度で、十分な臨床効果が期待できます。

 つまり、健康な状態で予防医学的にアンチエイジング効果や健康増進効果を期待する場合は、ケトン体誘導の生理的なリズムを維持し、活用していけばいいことになります。

萩原圭祐(はぎはら・けいすけ)
大阪大学大学院医学系研究科 先進融合医学共同研究講座 特任教授(常勤)、医学博士
1994年広島大学医学部医学科卒業、2004年大阪大学大学院医学系研究科博士課程修了。1994年大阪大学医学部附属病院第三内科・関連病院で内科全般を研修。2000年大学院入学後より抗IL-6レセプター抗体の臨床開発および薬効の基礎解析を行う。2006年大阪大学大学院医学系研究科呼吸器・免疫アレルギー内科助教、2011年漢方医学寄附講座准教授を経て2017年から現職。2022年京都大学教育学部特任教授兼任。現在は、先進医学と伝統医学を基にした新たな融合医学による少子超高齢社会の問題解決を目指している。
2013年より日本の基幹病院で初となる「がんケトン食療法」の臨床研究を進め、その成果を2020年に報告し国内外で反響。その方法が「癌における食事療法の開発」としてアメリカ・シンガポール・日本で特許取得。関連特許取得1件、関連特許出願6件。
日本癌治療学会、日本臨床腫瘍学会、日本臨床栄養代謝学会(JSPEN)などの学会でがんケトン食療法の発表多数。日本内科学会総合内科専門医、内科指導医。日本リウマチ学会リウマチ指導医、日本東洋医学会漢方指導医。最新刊『ケトン食の名医が教える 糖質制限はやらなくていい』がダイヤモンド社より2023年3月1日に発売になる。