ロシアからのパイプラインが止まり    
欧州の「ロシア離れ」進む

 実際、ロシアから欧州に天然ガスを送るシステム「ノルドストリーム」経由の供給は22年8月末から完全に停止している。同年9月末には、ノルドストリームで破壊工作とみられる爆発が起きた。近い将来、供給が再開される見込みはない。

 パイプラインのビジネスの最大の弱点は「売り先を変えられないこと」だ(第52回・p3)。欧州向けのパイプラインが止まれば、単純に止めた分の売り上げがなくなる。それを他国に振り向けることは物理的に不可能である。

 意外なことに、ロシア産の原油と天然ガスの輸出量は22年に増加したが、その要因は経済制裁に加わっていない中国・インド・新興国向けの輸出が増えたことである。

 世界的に石油・ガス価格が高騰する中、ロシアはそれらの国々と格安で取引しているようだ。輸出量が増えたとはいえ、財政を圧迫しながら取引しているようでは長続きするはずがない。

 この輸出は、次第にロシア経済を追い込むことになるだろう。

 一方、欧州では、エネルギー源の「脱・ロシア依存」が進みつつある。その代表例が、ノルドストリームの終着地であるドイツだ。ドイツは22年11月、北海沿岸のビルヘルムスハーフェンに液化天然ガス(LNG)輸入ターミナルを完成させた。

 また、ドイツは「浮体式LNG貯蔵・再ガス化設備」の調達も進めている。船で運搬されてきたLNGを洋上で受け入れて貯蔵したり、既存のパイプラインと接続して陸上に供給したりできる設備である。要は、ロシアに頼らなくてもLNGを調達できる仕組みを整えているのだ。

 これらはあくまで一例だが、欧州のロシア産石油・天然ガス離れは確実に進んでいる。ロシアと停戦のための対話を粘り強く続けてきたはずのドイツが、冒頭で紹介した戦車「レオパルト2」をウクライナに供与することを決めた出来事は「ロシア離れ」を象徴しているのかもしれない。

 なお、22年1~9月における米国のLNG輸出量は、同国史上初めて「世界一」となった。言うまでもなく、パイプライン停止を受けて欧州向けが急増したからである。米英の石油大手にとって、欧州の石油・天然ガス市場を取り戻す野望は現実になりつつある。

 政治的にも、ウクライナ紛争が長期化・泥沼化したところで、米英へのデメリットはあまりない。紛争が長引けば長引くほど、「力による現状変更」を行ったプーチン大統領は国際的に孤立し、国内でも支持を失っていくからだ(第304回・p3)。

 米英にとってウクライナ紛争とは、20年以上にわたって強大な権力を保持し、難攻不落の権力者と思われたプーチン大統領を弱体化させ、あわよくば打倒できるかもしれない好機である。だからこそ、ウクライナ紛争を積極的に停戦させる理由がないのだ。