炎症を繰り返すことで
抜歯が難しくなるリスクも

 とはいえ、「痛い…」「怖い…」と、歯医者に対してネガティブなイメージを持つ人は、特にミドル世代に多い。小林氏も「そう思うのも無理はありません」として、その理由についてこう語る。

「今のミドル世代が幼い頃の歯医者というのは、たとえば、ちょっと削るだけなら麻酔なしで削るとか、嫌がって暴れる子を押さえつけて無理やり施術を受けさせるとか、親知らずだって、大工さんが使うようなノミやトンカチのような道具を使って抜いている時代もありました。これでは、恐怖心が芽生えるのも当然でしょう」

 そういった経験や、ウワサを聞いたりすることによって、ミドル世代においては「歯医者=痛くて怖い」と、トラウマになっている人も多いという。

「ですが、親知らずはとにかく早く抜くに越したことはありません。なかには、炎症が起きるまで長期的に放置し続け、痛みに耐えられなくなってようやく歯医者に行く人もいます。しかし、その状態の人は、すぐに処置ができないのです。なぜなら、炎症が起きて組織が酸性に傾いている部分に、アルカリ性である麻酔を打っても、中和されてしまって麻酔が効かないなんてこともあるからです。そうなると抗生物質を飲んで、いったん炎症が静まって麻酔が効く状態になるのを待つ必要があり、苦しい時間を過ごすことになってしまいます」

 だが、抗生物質を飲んで痛みが治まると「痛みが消えたから放置でいいか」と、抜歯を放り出す人もいるのだとか。こうして炎症を繰り返すと、骨は炎症の拡大を防ぐために硬くなり、いざ抜こうとしたときに通常の親知らずよりも抜きづらい状態になってしまうという。

「だから、歯と骨が強固にかみ合う前に、痛みが本格的になる前に、親知らずは抜いてしまうほうがいいのです。今は昔と違って医療も発達し、麻酔の針もかなり細くなりましたし、ノミやトンカチを使って抜くなんてこともしません。昔と比べて、痛みも怖さも少なくなっていますよ。もし、4本すべて口腔内に残っているという人は、入院して全身麻酔でまとめて抜いてしまうのもラクですよ。入院して抜くならアフターフォローも手厚く、安心ですからね」

 歯は一生ものだ。あらゆるトラブルのもとになりかねない親知らずは、取り返しがつかなくなる前に、少しでも早く抜くのが最適解といえよう。

<識者プロフィール>

小林瑠美(こばやし・るみ)
医療法人社団 桜路会 ルカデンタルクリニック理事長/院長。きめ細やかなカウンセリングを心がけ、患者一人ひとりのライフスタイルに合わせた歯科医療を提供している。