なぜ、賢いはずの「あの人」がありえないヘマをしでかすのか?なぜあんなに優秀な人が、昇進した途端、別人のようにダメになったのか?「ピーターの法則」を知っていれば、その原因も、対処法もわかる――。
言わずと知れた世界的ベスト&ロングセラー『ピーターの法則』。1969年の刊行から半世紀、世界中で読み継がれてきた、まさに「伝説の名著」です。この度、「新装版」として新しく生まれ変わった『ピーターの法則』から、その魅力をご紹介。会社、学校、お役所、政府……あらゆる組織に蔓延する「無能」の実態とは?(初出:2018年3月26日)
会社、学校、お役所……どこもかしこも「無能」だらけ!
「偉い人っていうのは、自分が何をしているのか、ちゃんと理解しているものだ」。私は子どものころ、そう教わったものです。「いいかい、ピーター、勉強をすればするほど、偉くなれるんだよ」。そんな励ましを受けて私は大学に進み、この教えを肝に銘じて、教員免許を片手に実社会に飛び込んでいきました。
そして迎えた教師生活一年目……。私は、少なからぬ教師、校長、指導主事、教育長といった人々が、教育者としての職責を理解しておらず、その義務を果たすには不適格、つまり無能であると知って唖然としました。
どういうことかと言えば、私が最初に赴任した学校では、校長の最大の関心事は、窓のブラインドがきれいに同じ高さにそろっているか、教室内が静かか、バラの花壇に足を踏み入れる者はいないかということだったのです。指導主事はといえば、とにかくマイノリティの人々の感情を害するようなことが行われていないか、すべての書類がちゃんと期限どおりに提出されているか、そんなことばかりを気にしていました。管理職の職務のなかで、子どもの教育問題はまるで隅っこに追いやられていたのです。
はじめ私は、この学区だけが特殊なのだろうと割りきっていました。そこで、別の学区で採用してもらおうと出願しなおすことにしたのです。お役所的なやり方にも忠実に従って、所定の用紙に必要事項を記入し、書類をそろえて応募をすませました。ところが数週間たったころ、なんと出願書類が全部送り返されてきたのです!
書類に不備があったわけでもなく、記入漏れも見つかりませんでした。ちゃんと公印が押されているところを見ると、いったんは受理されたに違いありません。しかし、同封された手紙にはこう書かれていたのです。
「このたびの規則改正により、こうした出願に関わる書類は、配達の際の安全性確保という観点から、『書留』で郵送されたもの以外は、当方ではいっさい受理できないことになりました。ご面倒ですが、もう一度『書留』扱いでご送付いただきたくお願い申し上げます」
ひょっとすると無能というのはこの地区の教育機関の専売特許ではなさそうだ、という疑念が私のなかに芽生えました。
広く外に目を向けてみると、組織と名のつくところには必ずや仕事のできない人間がごろごろしていることに気づいたのです。