藤本健司 我究館館長から一言!

「職業選択は、果てしないスクラップ・アンド・ビルド」

 学歴や職歴に連続性が求められ、「コースから外れること」を良しとしない日本社会にあって、河口公平さんの歩みをどのようにご覧になったでしょうか。彼が「なりたいもの」は、年齢とともに大きく変わっていきます。しかし、その動機は、単にその時々の花形職業を追いかけるような表面的なものではないことは確かです。

 河口さんのように、立ち止まって自分で確かめ、納得して他の道を探すことは、今後キャリアを形成する過程で、正しかったと思える日が必ず来るはずです。実際、我究館で納得できる就活の成果を上げている人は、「自分で答えを出す力」を磨いた人たちです。彼らは、次のようなPDCAサイクルでその力を身に付けました。

■職業選択のPDCAサイクル
(1)憧れの職業(または、業種や職種)を見つける 
(2)仲間と一緒に、志望動機を「本当に?」「何で?」「具体的には?」で精査する
(3)必ず「一次情報」を得て(2)を確認する
(4)「一次情報」から得た知識で(2)の志望動機を壊す ⇒(1)に戻る(再構築へ)

 PDCAサイクルで重要なことの一つは、「一次情報」を取りにいくこと、つまり、ネットや机上の知識ではなく、目指す職業に就いている大学の先輩などに、直接自分で状況を聞きに行くことです。
 
 ただし、何となく聞きに行くだけでは意味はありません。河口さんのように、「自分はこの職業(会社)では、これができると考えている」という「仮説」を立て、それを軸に自分の考えは実際の業務内容と近いのか、外れているのかを「検証」する作業を、なるべくたくさん繰り返し、精査することが大切です。
 
 先輩の訪問や採用選考の際、「仮説」が否定されることもあるでしょう。でも、崩れたところから何を積み上げていくかが最も重要なのです。再構築には内面的なつらさも伴いますが、ぜひ、PDCAサイクルの(2)を、本心を言い合える友人と行って乗り越えてください。また、サイクルを早く回すことで落ち込む時間が減り、気持ちのリセットまでの時間も短縮できます。
 
 それにしても、河口さんのご両親はすばらしいですね! 高校をやめてアルバイトを始めたとき、音楽スクールのオーデションに合格したとき、大学に進学すると言ったとき、いずれも河口さんの決断を後押しされたとのこと。普通は、決して簡単に同意できる話ではありません。やはり、きっとどこかに、心配や不安な気持ちがあったことでしょう。

 私は、そのご両親の気持ちが、後にお母さんのこんな言葉で河口さんに返ってきたことに感動しました。最後に、ぜひお伝えしておきたいと思います。

 大学に入学した後、ある日、河口さんがお母さんに「最近、なんだか幸せそうだね」と尋ねたそうです。するとお母さんは、「公平のおかげで、何が幸せなのかに気がついたんだよ」「回り道をしても、今、家族が元気に生きてくれていることが一番の幸せ」と、うれしそうにおっしゃったそうです。

(我究館館長 藤本健司)