『独学大全──絶対に「学ぶこと」をあきらめたくない人のための55の技法』著者の読書猿さんが「勉強が続かない」「やる気が出ない」「目標の立て方がわからない」「受験に受かりたい」「英語を学び直したい」……などなど、「具体的な悩み」に回答。今日から役立ち、一生使える方法を紹介していきます。
※質問は、著者の「マシュマロ」宛てにいただいたものを元に、加筆・修正しています。読書猿さんのマシュマロはこちら

「20歳、勉強ができずうつになり今はニート」挽回するには何をすればいいかPhoto: Adobe Stock

[質問]
 当方20歳になるものです。情けない話なのですが勉強ができないことを拗らせてしまい、大学に入学するどころか完全にニートの状態です。高校受験の際に精神的につまづいてから高一の夏に軽い鬱になりそこから完全に勉強に手がつかないできない状態が卒業まで続き、授業は一切わからず、なんとかしようと性格に問題があるのかと自己啓発本に手を出したり、塾に入り結局出来ずに塾の先生に対する恐怖で塾を辞めることを何回も繰り返し、定期テストなどの勉強に対する恐怖があると学校を最大3週間休むこともありました。ただ書き写すなどの課題はできたのでなんとか学校の先生方のご厚意のお陰で卒業することはできましたが、その後も勉強に対する自信がつかず、塾に行ってもやめ独学でやろうにもどうせダメだろうと考えてしまい勉強をやめてしまいます。小中レベルの勉強から始めようにも大学受験での目標を決めても意識自体がゴミなのでもうどうしようもないです。

 勉強が出来ないので就職バイトも考えていますが高校時代対人恐怖も拗らせたためもう自分には何もできません。せいぜいそれらを回避して生活することしかできないです。でも結局中途半端に諦め悪いので、おこがましいですがマシュマロの方を打たせていただきました。

 すみません。文章も緊張と恐怖で完全にまとまってないです。結局自分がただ愚痴ったような形になってしまいました。申し訳ございません。

 こんな状態から勉強をどうやればいいのか、ご教授できたらお願いできないでしょうか。本当にすみません。少なくともこのような質問をかけるくらいの生活基盤はありますがそのような状態で自分で何もできないのが恥ずかしいです。文章がまとまっていないのでまたマシュマロの方にメッセージを送らせていただくかもしれません。すみません。

まずは、ウィキペディアの誤字を直してみましょう

[読書猿の回答]
 たくさんの方法がありますが、あなたの情報が不足しているので、選べません。なので、ひとまずおすすめの方法をひとつだけ挙げてみます。

 マシュマロをいただいたことから考えて、ネットを閲覧することはできると思います。でしたら、今すぐウィキペディアのアカウントを作ってください。あなたがやるのは百科事典ウィキペディアを編集すること、つまりウィキペディアンになることです。

 いきなり百科事典の記事を書け、とはいいません。ウィキペディアはこのあたりちゃんと仕組みを整備していて、初心者ウィキペディアンにうってつけの仕事を用意しています。最初は「校正(誤字や文法、文体の修正)」や「記事同士をつなぐリンクを追加する」がおすすめされ、こうした編集を必要とする記事へ案内されます。ひとつ5分もかかりません。

 この作業は、あなたをこれまで知らなかった事項、興味も関心もなかったトピックにつれていくでしょう。これこそがあなたに与えられるギフトです。

 あらゆる学びは「驚き」から始まります。古代ギリシア人がこれをタウマゼイン(θαυμάζειν)と呼びました。

 繰り返しますが学びは驚きから始まります。自信からではありません。「自分にもできるだろう」という自信から始められるものは、学習の姿をしていても、作業に過ぎません。それはその人を肥大させることはあっても、変えることはありません。

 私達は、自分に足りないところがあるから、至らないと打ちのめされるから、このままじゃいけないと悩むからこそ、学びます。学ぶことができます。自分を驚かすもの、脅威にさらすものがあるからこそ、学ぶと言ってもいい。

 しかし、今のあなたに恐怖を与えるそのものについて学べ、というのは酷でしょう。幸い、それ以外にも驚きをもたらすものはいくらでもあります。

 あなたを驚かせるものがウィキペディアに見つかるかどうか分かりません。おそらくすぐには見つからないでしょう。

 しかしこの探索は、少なくともあなたにとってリスクは無いか、あってもごく僅かです。

 しかも、ランダムにウィキペディアを閲覧するだけよりも、編集することは、誰かの役に立ちます。1日1000万人が閲覧するウィキペディアに触れる誰かの。

 毎日やるに越したことはありませんが、そのうち飽きて遠ざかる日が来るでしょう。そしたらまた思い出して再開すればいいだけの話です。そうするうちに、半年もやれば500回ほど編集に関わった記事ができているはずです。

 ここまでたどり着いたウィキペディアンには、もう一つの知の扉が開きます。ジャーナル契約をたたみつつある大学では、もはや利用できないほどの多数多様なデータベースにアクセスできる、ウィキペディア図書館です。