今、最も注目を集める急成長企業ワークマン。4000億円の空白市場を開拓し、“頑張らない経営”で10期連続最高益。「#ワークマン女子」も大人気。テレビでも大きく特集され続けている。
さらに急成長の仕掛け人・ワークマンの土屋専務白熱の処女作『ワークマン式「しない経営」――4000億円の空白市場を切り拓いた秘密』も増刷を重ねている。
めちゃめちゃ面白い! 頑張らないワークマンは驚異の脱力系企業だ」(早大・入山章栄教授)
ワークマンの戦略は世紀の傑作。これほどしびれる戦略はない」(一橋大・楠木建教授)
なぜ、今「しない経営」が最強なのか?
スタープレーヤーを不要とする「100年の競争優位を築く経営」とは何か?
ワークマン急成長の仕掛け人が「ダイヤモンド経営塾」会員だけに語った「最新・限定特別講義」を特別にお届けする。

キャンプPhoto: Adobe Stock
【ワークマン仕掛け人の告白】アンバサダーの意見を100%丸呑みしてキャンプ用品をつくったら大成功した理由土屋哲雄(つちや・てつお)
株式会社ワークマン専務取締役
1952年生まれ。東京大学経済学部卒。三井物産入社後、海外留学を経て、三井物産デジタル社長に就任。企業内ベンチャーとして電子機器製品を開発し大ヒット。本社経営企画室次長、エレクトロニクス製品開発部長、上海広電三井物貿有限公司総経理、三井情報取締役など30年以上の商社勤務を経て2012年、ワークマンに入社。プロ顧客をターゲットとする作業服専門店に「エクセル経営」を持ち込んで社内改革。一般客向けに企画したアウトドアウェア新業態店「ワークマンプラス(WORKMAN Plus)」が大ヒットし、「マーケター・オブ・ザ・イヤー2019」大賞、会社として「2019年度ポーター賞」を受賞。2012年、ワークマン常務取締役。2019年6月、専務取締役経営企画部・開発本部・情報システム部・ロジスティクス部担当(現任)に就任。「ダイヤモンド経営塾」第八期講師。これまで明かされてこなかった「しない経営」と「エクセル経営」の両輪によりブルーオーシャン市場を頑張らずに切り拓く秘密を『ワークマン式「しない経営」』で初めて公開。本書が初の著書。2022年7月より東北大学特任教授も務める

キャンプギア参入で40億円!
善意のアンバサダーとのコラボ

 今、最も力を入れているのがSNS販促です。

 前に触れたアマゾンに負けない3つの方針の1つです。

 アマゾンは有名で広告費は不要です。

 広告費を使ったら負けです。

 そこで、当社が力を入れているのは無償ベースのSNS販促です。

 これは善意のアンバサダーが大活躍しています。

 善意とは「自発性」が軸となっています。

 今、SNSでアンバサダーさんを巻き込む仕掛けをつくっています。

 これは社内で「自走型」社員をつくる仕組みと似ています。

 おかげさまでワークマンのキャンプギア商品がEC注文/店舗受取限定販売だけで年間40億円売れていますが、キャンプギア商品すべてをアンバサダーとともにつくりました。

 アンバサダーさんの意見を100%丸呑みして新商品をつくる。

 ワークマンのキャンプギア担当者はこれまでキャンプに5回しか行ったことがない。キャンプ歴はたった1年です。

 キャンプに強いアンバサダーたちは、年間52回キャンプに行っています。 

 週末は子どもを連れて必ずキャンプに行き、

「やっぱり自然で親と生活するのが最高の教育だ」

 と言います。

 素晴らしいですね。

 アンバサダーたちと話しているうちに女性の98%が虫が嫌いという話になりました。

 そこから防虫ジャンパーをつくりました。

 アンバサダーはワークマンの熱いファンです。

 とことんワークマンを愛しているのです。

 社員は給料もらって働いていますが、アンバサダーは一円もお金をもらっていません。

 この話をすると必ず、

「え?! お金もらっていると思っていました!
もらっていないんですね?!」

 とびっくりされます。

 自分のサイトでYouTubeやインスタグラムで発信すると、ワークマンのことを知らなかった若い人たちが初めてワークマンの新製品に触れる。

 発信力のあるインフルエンサーが本気でワークマン商品を薦めてくれるときの威力は半端ないです。

 魂こもっていますから、どんどん売れていきます。

 YouTubeのチャンネル登録者と再生回数が増えればアンバサダーの収入も増える。

 アンバサダーとはいいお友達関係を続けています。

 上野の本社に入ってきて社内会議に出て忌憚なき意見を言う。

 それを受けてワークマンの社員も質問&それに答えるの応酬。

 常に一方的な話ではなく「双方向のコミュニケーション」なんですね。

 もしアンバサダーがワークマンから請負仕事としてお金をもらってしまったら、生きた発信ができなくなるでしょう。

 これでは「PR」です。

 そんなものを読者は見たくないから確実にスキップされるわけです。

 5秒たったら確実に終了ボタン。

 ですから大事なのはウイン・ウインの関係。

 これからの時代、いくらブランドがあっても個別製品の評判を聞いて買うわけです。

 トップブランドでも、消費者は評判を聞かないと安心できないのです。

プロスペクト理論から
情報伝達の仕組みを解明するネットワーク理論まで学べる一冊

 自分がフォローしているインフルエンサーの意見をじっくり聞きたい。

 そこでいい意見がついたものしか買いたくない。

 だから、ブランドがいくらあっても評判が悪かったらダメ。

 いわば、「評判はP/L」、「ブランドはB/S」といえるのかもしれません。

 P/Lは今の状態、B/Sは過去から蓄積を表します。

 昔は蓄積されたブランドイメージにあこがれて購買しましたが、今はその商品を使った結果がよくないと買いません。

 ブランドも盛衰があり、個別製品の評判のほうが重要です。

 このあたりのことが腑に落ちるのは、入山章栄氏(早大教授)のロングセラー『世界標準の経営理論』です。

 この本の中に、意思決定バイアスの理論、プロスペクト理論、ソーシャルネットワークの理論、オープン・イノベーション戦略などが紹介されています。

 これらが私の経営の理論的な支えになっています。

 特にプロスペクト理論は「失敗したくない」ため評判を気にするユーザー心理が理論的にどう裏づけられるか、とてもわかりやすく述べられています。

 これらの理論は実践的で今後、新しいマーケティングの中心になる気がしています。

『ワークマン式「しない経営」』では、

社員のストレスになることはしない
ワークマンらしくないことはしない
価値を生まない無駄なことはしない

 ことで4000億円の空白市場を切り拓いた秘密を一挙公開しました。

 私の初の著書です。気持ちを込めて書き尽くしました。

(本原稿は、『ワークマン式「しない経営」』著者・土屋哲雄氏の特別投稿です)