ロールプレイング・ゲームとしての人生

 人生はロールプレイング・ゲームに似ている。これはたんなる比喩ではなく、脳があらゆる体験を「物語」として理解しているとすれば当たり前のことだ。逆にいうと、よくできたロールプレイング・ゲームは脳の経験に似ているので人気があるのだろう。

 さまざまなロールプレイング・ゲームのなかで、いちばんつまらないのは、難しすぎてまったく攻略できないものだ。これは「無理ゲー」と呼ばれる。しかしそれと同じくらいつまらないのは、初期設定からキャラクターのレベルがマックスで、どんどん進んでいったらゴールしてしまうゲームではないだろうか。

 ゲームの楽しさは、低いステイタスを努力や工夫によってすこしずつ上げていく経験であり、うまくいったと思ったら大きな失敗があり、それを乗り越えるとより大きな成功が手に入るというドキドキ感にある。

 人生もこれと同じで、貧困家庭に生まれ、なにもいいことがなくずっと貧しいままの人生は不幸にちがいない。だがその一方で、恵まれた家庭に生まれ、なにひとつ不自由なく育っても不幸なひとはたくさんいる。どんなに努力しても「親の七光り」と見なされて、自分のちからでなしとげたものなどなにひとつないと思われてしまうのだ。かといって、恵まれた境遇からどんどん落ちぶれていくのでは絶望しかないだろう。

 それに対して、移民の二世、三世に多いが、貧しい家庭に生まれ、差別と戦いながら大きな成功を手にするひともいる。あるいは、裕福な家で生まれ育っても、親が破産したとか、勘当されたとかでどん底に落ちたあと、自分のちからで社会的・経済的な地位をつかむこともあるだろう。こうした「波乱万丈」があると、人生の幸福度は高い。

橘玲(たちばな・あきら)
作家
2002年、金融小説『マネーロンダリング』(幻冬舎文庫)でデビュー。『お金持ちになれる黄金の羽根の拾い方』(幻冬舎)が30万部の大ヒット。著書に『国家破産はこわくない』(講談社+α文庫)、『幸福の「資本」論 -あなたの未来を決める「3つの資本」と「8つの人生パターン」』(ダイヤモンド社刊)、『橘玲の中国私論』の改訂文庫本『言ってはいけない中国の真実』(新潮文庫)など。最新刊は『シンプルで合理的な人生設計』(ダイヤモンド社)。毎週木曜日にメルマガ「世の中の仕組みと人生のデザイン」を配信。