昨年師走28日、脂質異常症・閉塞性動脈硬化症治療薬「エパデール(イコサペント酸エチル)」のスイッチOTCの製造販売が承認された。生活習慣病薬のスイッチは国内初。是非をめぐる審議会では真っ向から反対する日本医師会と、賛同する日本薬剤師会との溝が浮き彫りになった。

 スイッチOTCは、医療用医薬品として使われていた薬を薬局で店頭販売できる一般用医薬品へ転用したもの。安全性、有効性に問題がないと判断された薬剤に限る。エパデールは魚油素材の高純度EPA。安全性の問題はほとんどなく、今回の承認で長期の有効性が裏付けられた薬剤を手軽に利用できるようになったわけだ。

 ところがこの「手軽さ」が危険というのが医師会の主張。安易な服用で受診を怠り重症化を招く恐れがあるほか、肝疾患など他の病気との鑑別が遅れるという。エパデールの承認を機に、生活習慣病薬のスイッチOTC化が一気に進むことへの懸念もあるだろう。

 一方の薬剤師会はセルフメディケーション推進の立場。ついでに薬剤師の職域拡大への期待もちらほら見え隠れする。しかし、実際に店頭で詳細な問診や自己申告の検査値に基づいた購入判断ができるかは大きな疑問符がつく。

 英国では2004年に脂質異常症治療薬「シンバスタチン」のスイッチを承認。昨年10月に報告されたスコットランド在住薬剤師対象の調査からは、「(OTCとして)エビデンス不足」「ニーズが低い」「患者の医療情報がわからない」などの理由で販売に消極的な様子がうかがえた。セルフメディケーションで重症患者も医療費も削減! という当局の青写真はあっさり覆ったらしい。まして、病院の敷居が低い日本なのだ。スイッチの利便性プラスアルファがなければ英国の二の舞いである。

 ただし、国内では医師会の猛反発もあって、生活習慣病薬のスイッチOTC化はしばらく凍結。あらためて今後のあり方を議論する予定だ。当局、医師会、薬剤師会それぞれの利害対立、思惑はあるだろう。しかし、そこに一般生活者の視点は入っているのだろうか。最終受益者はわれわれのはずだ。

 (取材・構成/医学ライター・井手ゆきえ)

週刊ダイヤモンド