武部氏は、この会の結成について「これまでも自民党では金権スキャンダルや政策への不信感などで党の支持が失われていったとき、若手が声をあげてきた歴史があります。遠くさかのぼれば福田赳夫先生が設立した党風刷新連盟もそう」と述べている(文藝春秋、21年11月号)。つまり党風を変えると国民に言い張れば、難を逃れることができると確信していたということだろう。

 事実、福田赳夫氏(福田達夫氏の祖父で同じく元首相)の党風刷新連盟も、先だっての「党風一新の会」であっても、発足して自民党の何かが変わったと感じている人など誰もいないだろう。果たして、自民党は選挙に圧勝し、自民党は自民党のままである。

政治家の世襲にはメリットもあるが
「発動条件」がある

 世襲に対して、肯定的意見もある。青山学院大学教授の福井義高氏などだ。福井氏は、世襲にはメリットがあるとするが、そのためには以下のような条件が必要だという(産経新聞、23年1月18日より)。

「自分の地盤を豊かにするため、他から収奪する『ねずみ小僧』戦略が不可能な体制でなければならない。そのためには、国家財政による地域間の所得移転は極力抑え、地域ごとの独立採算を前提に、地方分権を進めることが必須である。地域間の政府サービス競争は国家の独占的性格を弱め、その暴力団性を抑える効果がある。他の地域から収奪することができなければ、国全体や自らの地盤の経済活動を盛んにしないと、政治家も分け前にあずかれない」

「世襲議員大いに結構。よそからおカネを奪ってくるのではなく、国や地域の経済的発展に尽くしてください」

 実際に、日本の地方で起きていることは世襲政治家による利権の差配でしかない。信千世氏が立候補する山口県には五つも新幹線の駅があるが、地域は何一つ発展していない。東京都に新幹線駅は三つ、神奈川県には二つのみだ。いくら地域に公共事業を(大半は国の金で)誘導しようと、どうにもなっていない。

 地域が没落すればするほど、新興企業や若者は出ていくため、浮動票は減り、残った住民は利権の差配を期待しがちになる。世襲政治家にとって選挙で当選しやすい地盤が強化されていくことになる。

「世界の政治家の世襲状況を調べた米国の研究者ダニエル・スミス氏の調査では、国会議員で世襲が多いのは1位がタイ、2位がフィリピン、3位がアイスランド、4位が日本」(朝日新聞、23年3月10日)だという。一切の世襲を否定するつもりはないが、小手先のテクニックをもてあそび、結局のところ国内で利権の奪い合いやバラマキを繰り返し、そのしわ寄せを増税で国民に押し付ける…。そんな何一つ国の経済発展に寄与できない世襲政治家には、即刻退場を願いたい。