43エンジンのパワーは十二分だ。スペックだけ見るとはSL用として多少物足りなく感じるかもしれないが、F1テクノロジーの活用という電動ターボがいい仕事をしている。エンジンの反応は機敏。どんな場面でもほしい力を手に入れることができた。燃費もなかなか優秀だった。なるほど6気筒SLのダウンサイザーだと思えば納得もいく。
気になった点は、9速スピードシフトMCTのマナーだ。新型SLは全車が多板クラッチのトルコンレスATを積んでいる。このミッションの低速域のマナーはいただけない。ギアチェンジがスムーズにいかず、ギクシャク感がどうしても出てしまうのだ。スリップロスの少ないクラッチシステムで、回転数の高い領域ではその小気味よさがうれしいけれど、車庫入れなどでいつもスムーズさに欠けるのは興醒めというもの。日本の市街地では、おや?っという場面に多く出遭った。
一方、グランドツーリングカーとしての性能は素晴らしい。最新の運転支援が正確に作動し、気分がいい。だからこそ細かな点が気になってしまう。メルセデスのフラッグシップというべき伝統のネーミングだけに、今後の進化を見守りたい。そしてできれば日本でもV8モデルに乗ってみたいものである。
(CAR and DRIVER編集部 報告/河村康彦 写真/小久保昭彦)