日本のデジタル化の遅れは経済的地位を揺るがす

 デジタル払い解禁は、わが国が世界的なデジタル化に対応するために欠かせない要素の一つと考えられる。一時、政府の内部では、デジタル払いの解禁を足掛かりにしてフィンテック企業の成長を加速し、海外の需要取り込みにつなげる考えもあったようだ。それは、規制によって守られてきた銀行などの分野で競争を喚起する狙いもある。

 より成長期待の高いビジネスモデルが生み出され、当該分野へヒト・モノ・カネの再配分が勢いづく可能性も増す。地方企業の提言をきっかけに規制緩和が進み、デジタル払いが解禁されたことは、ある意味エポック・メイキングな変化だ。

 ただ、現在のわが国では、デジタル払いの意義が社会全体で共有されているとは言いづらい。変化が起きていることは重要だが、そのペースはかなり緩慢といってもよいだろう。

 デジタル払いに関するアンケートを見ると、デジタル払いの認知度は高いといえない。特に、「言葉は聞いたことはあるが、内容は理解していない」という人が過半数を占める結果が散見される。理解度が十分ではないため、積極的にデジタル払いを活用したいという考えの人も増えにくい。

 認知度の低さの要因の一つとして、政府、企業にとって十分な準備期間が取れなかったことは大きい。特に、雇用者である企業にとって、給与の振り込み形態の多様化に対応するには時間がかかる。個々の就業者からの理解や同意の取り付けなどの負担もある。結果的に、経済環境や技術の変化に合わせて、制度やルールを改変することの難しさが分かる。

 依然として、わが国全体でデジタル技術への活用の危機感は希薄といえるだろう。その状況が続けば、世界経済におけるわが国の「デジタル・ディバイド」ぶりは一段と鮮明にならざるを得ない。その状況が深刻化すると、わが国が現在の経済的な地位を維持することも難しくなるだろう。そうした点を踏まえても、デジタル払いの普及ペースは注目に値する。