「世襲体質」を変えようとした結果
大物政治家の「チルドレン」が暴走の皮肉
一方、この人事システムでは、官界・ビジネス界で成功した後や、知事などを経験した後に40~50代で政界入りした人物の実績はほとんど考慮されない。「ただの1年生議員」として扱われ、そこから政界でのキャリアをスタートさせねばならない。
そして、40~50代で政界入りすると、初入閣するのは 50代後半か60代前半となる。そのとき、彼らと同年代の世襲議員は、既に主要閣僚・党幹部を歴任したリーダーとなっている。
世襲議員を要職に抜擢する人事としては、小泉純一郎内閣の安倍晋三自民党幹事長や石原伸晃国土交通相、麻生太郎内閣の小渕優子少子化担当相、菅義偉内閣の小泉進次郎環境相などが代表例である。
一方、確かに自民党など各政党は、「世襲批判」を受けて「候補者の公募」を行うなど、参入障壁の緩和を図ってきた側面もある。
実際に、2000年代に入ると「小泉チルドレン」(自民党、2005年総選挙)、「小沢ガールズ」(民主党、2009年総選挙)、「安倍チルドレン」(自民党、2012年総選挙)など、三バンを持たない新人の大量当選現象が起こった。
しかし、その結果は惨憺(さんたん)たるものだった。チルドレンのさまざまな失言や不適切な行動によって、「政治家の資質」の低下がより厳しく批判されるようになった。
世襲ありきのシステムを改革しようとした結果、外から政界入りした人材が不祥事を連発させたのだから皮肉なものである。
ビジネス界で活躍する優秀な人材は、なぜあまり政界に入ってこないのだろうか。
筆者は、その理由は二つあると考える。
一つ目は、「1年生議員」として扱われる状況下で出世へのモチベーションを描けないこと。二つ目は、終身雇用・年功序列の「日本型雇用システム」から逸脱するのが難しいことだ(第156回)。
今回は、後者を掘り下げて解説する。現在の雇用慣行では、企業で「正社員」のステータスを得た若者が、年功序列・終身雇用のレールから一度外れると、その恩恵を再び享受することが難しくなる。
そのため転職する場合も、似たような雇用慣行の他社に移る程度であり、政界入りなどの挑戦に踏み切る人は珍しい。