日本の電源構成ではEVの実質的なCO2排出量はさほど減らない上、高コストな電池や充電設備の未整備、航続距離の問題など、消費者サイドが自発的にEVを選ぶには課題も多い。

 日本車をリードするトヨタが脱炭素へ全方位(ハイブリッド車、プラグインハイブリッド車、燃料電池車、バッテリーEV、水素、CN燃料)戦略を掲げる中で「EVも本気」と宣言したのが豊田章男前社長(現会長)だった。それが4月に就任した佐藤恒治新社長は、7日のトヨタ新体制方針説明会で「マルチパスウェイ(全方位)の軸をぶらさずに、BEVの開発、投入に積極的に取り組んでいく」と、EV本格転換を打ち出した。また、「これまでBEVに対する具体的なファクトを十分に示せていなかったかなと反省しています」と、トヨタのEV出遅れを指摘する声に応えるような発言も示した。

 いずれにしても、志賀氏の「日本車のEV出遅れは日本自動車産業の構造転換の遅れとなり、世界から取り残されることになる」という主張と懸念に対し、トヨタもこのEV本格化の方針で、産業構造転換に向けた歩みが進むことになった。

 軽EVの日産「サクラ」/三菱自「ekクロスEV」がヒットした22年は「日本のEV元年」と言われたものの、日本の新車販売に占めるEVは1.7%にとどまる。世界販売ではEV比率は1割に達し、中国は約2割、欧州は1割、米国は5%で日本車のEVシフトの遅れが逆に鮮明となった。

 カーボンニュートラルの時代、世界のEVシフトの進展スピードが加速する中で、モビリティの在り方やビジネスモデルはどう変革していくのか。注視していきたい。

(佃モビリティ総研代表・NEXT MOBILITY主筆 佃 義夫)